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天声人語

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2010年6月1日(火)付

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 「ミロのビーナス」の美しさの秘密は「黄金比」にあるそうだ。線を2分するとき、短い部分と長い部分の比が、長い部分と線全体の比に等しくなる割合をいう。おおむね1対1.6となり、古来、人間にとって最も美しい比率とされてきた▼ビーナス像の寸法を測ると、上半身と下半身の比、お尻と胸の幅、顔の縦横など、いたる所に黄金比が潜んでいるそうだ。万人に愛(め)でられるゆえんだろう。そんな黄金比に縁はなさそうだが、日曜の新聞を手にして、「縄文のビーナス」の優美な写真に引きつけられた▼滋賀県の相谷熊原(あいだにくまはら)遺跡から出た国内最古級の土偶である。縄文時代草創期の約1万3千年前のものという。肩はなだらか、胸は豊かに膨らみ、女性の上半身を表している。3センチの小粒ながら存在感はなかなかのものだ▼古代人のどんな手が、この人形(ひとがた)を作ったのだろう。豊かな曲線は母性への賛歌をうたっているように思われる。縄文時代の土偶はほとんど女性をかたどっている。多産と豊饒(ほうじょう)への願いを託し、再生の呪術にも使われたのだという▼肉づきのいい土偶を眺めながら、ふと現代女性の「黄金比」が気になった。「やせ願望」が高じて、どんどんスリムに向かっていると聞く。妊娠中も「太りたくない」と考える人が多いようだ。これは胎児に良くないらしい▼農耕以前の太古、人々は土偶の豊かな曲線に「腹いっぱい」の願望を込めたのだろう。はるか時は流れ、いま飽食の時代である。永い眠りから覚めての感想はいかがか。そっと「彼女」に聞いてみたい。

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