HTTP/1.1 200 OK Date: Wed, 26 May 2010 22:15:32 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:口蹄疫対策 種牛はなぜ殺される:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

口蹄疫対策 種牛はなぜ殺される

2010年5月27日

 人の役に立つべきいのちが、目の前で消えていく。宮崎県の畜産農家の苦悩は深い。四十九頭の種牛は、なぜ殺処分されるのか。もっとよく説明してほしい。もう二度と繰り返されないように。

 「あの子たちがかわいそうで…」。殺処分の進行を見守るしかない畜産農家の悲痛な声だ。「あの子」という言葉遣いに、手塩にかけた牛や豚への思いがこもる。

 口蹄疫(こうていえき)は、感染の速さが特徴だ。ウイルスの増殖を抑え、被害の拡大を防ぐには、増殖原の病獣を速やかに処分するしかない。理屈はわかる。だが、わかっていても、生産者の目に浮かぶ涙を見ると、心が痛む。

 「人のいのちを養うために、牛のいのちを育てる」のが、畜産農家の仕事という。大切ないのちを活(い)かしてやれない苦しみは、察するにあまりある。実務に当たる獣医師の嘆きも心に迫る。

 ましてや種牛は「宮崎の宝」である。人工授精と選抜を重ねつつ、一頭育てるのに七年かかる。“エース級”を育て上げるには数十年かかることもある。何代にもわたる営為と英知がこめられた“作品”ともいえるだろう。その上、肉牛とは違い、本来は永らえるべきいのちである。

 経済的側面からも、百年かけて営々と築いた「宮崎牛」ブランド消滅の危機に立ち、地元が助命を訴える気持ちも理解はできる。

 家畜伝染病予防法の規定に従えば、種牛も処分は免れない。

 しかし一方で、エース級六頭を“疎開”させたこと自体、超法規的措置ではなかったか。発生地から十キロ圏内の牛豚を感染の疑いありとみなし、全頭処分に決めたのも法の拡大解釈だった。また、疎開させた六頭のうち一頭が殺処分されたあと、残る五頭の経過観察を続けているのも例外的措置ではないか。二重基準に疑問を感じている人は少なくない。

 せめて、四十九頭の処分がなぜ必要なのか、何が例外にされるのか。政府は、農家だけでなく消費者に対しても、もっとわかりやすく、丁寧に、科学的知見を示して説明すべきではないか。

 そもそも宝である種牛に被害が及んだ最大の原因は、避難の遅れにほかならない。初動のまずさがここでも響いている。避難手段や隔離方法などの見直しは、事態収拾後の急務である。離島などに安全な避難先をあらかじめ整備しておく必要もあっただろう。三十万を超えるいのちが犠牲になる。その死をむだにしてはならない。

 

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