日銀が「成長基盤強化の支援」をうたい文句に新しい貸出制度の創設に動いている。中央銀行が政策金融機関のような仕事に踏み込むのは間違いだ。金融緩和を避けるための口実にしたいのか。
この貸出制度は、白川方明総裁が四月三十日の会見で「成長基盤強化の観点から民間金融機関の取り組みを資金供給面で支援する」と述べて検討が始まった。
その後の金融政策決定会合で貸付金利は無担保コールレートの誘導目標水準(現在0・1%)、期間は一年(借り換えあり)などと概要が固まった。
民間企業に直接融資するわけではなく、成長分野に投融資する金融機関に日銀が有利な条件で貸し出す。いわば「成長産業に貸すなら優遇しますよ」と日銀が銀行に誘い水を向ける仕組みだ。
一見、もっともらしい政策に見えるが、疑問点が多い。
白川総裁は「技術革新を促すような研究開発や科学技術の振興、成長分野として期待される環境・エネルギー事業」などと対象となる分野を具体的に挙げた。
成長産業育成をめざして有利な条件で投融資するのは本来、日本政策投資銀行のような政策金融機関の役割である。途中に銀行を介在させているとはいえ、中央銀行がなぜ乗り出すのか。
銀行が「成長基盤強化に役立つ」と言ったからといって、その通りかどうか日銀が適切に判断できるとは限らない。なにが成長基盤強化になるのか、本当のところは政府でさえ分からないのだ。形だけの基準を設けてみても結局、貸すかどうかは日銀の裁量に委ねられてしまうだろう。
どんな企業や産業が経済成長をもたらすのか、市場が判断する。需要があれば伸びるし、なければ衰退する。それが自由経済である。間接的にであれ産業を特定して資金を貸し出すのは、法で定められた日銀の役割を逸脱している可能性さえあるのではないか。
日銀がこのタイミングで、かつての「産業金融」のような仕事に乗り出したのは鳩山由紀夫政権が成長戦略の策定を急いでいることと無関係ではない。
民主党内では、デフレ克服のために日銀が物価安定目標を採用すべきだという意見が強まっている。政府が日銀に物価安定目標の導入を求める前に、先手を打って鳩山政権の成長戦略を手助けしようとしたようにも見える。
日銀は妙な政策を考えるより、デフレ克服に専念すべきだ。
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