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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
大阪の長尾幹也さんは、朝日歌壇によく職場を詠んだ歌を寄せる。〈リストラに幾人を切り捨てしのち彫像のごと我はひび割る〉。11年前、この一首が目に留まり、話を聞きに訪ねたことがある。営業の部長としての実際の体験だった▼〈解雇せむ社員四名を決めかねて秋の休日笑うなく過ぐ〉。通告に臨むと、口は渇き、足は震えた。「申し訳ない」「力になれなかった」と繰り返していた。告げられた一人は泣いた。長尾さんも泣いてしまったそうだ▼昔の取材を思い出しながら、一昨日の教育面の記事を読んだ。内定学生や新入社員に理不尽を言い、上司が罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせて追い詰め、辞めさせる。「新卒切り」とでも言うべき実態が目立っているのだという▼人間味はかけらもない。初日から怒鳴られたある社員は、3日目から連日反省文を書かされた。9日目に上司が「もうしんどいやろ?」。「頑張れます」と言うと、「給料もらって居座るのか」と退職届を渡したという。こんな会社があるのかと暗然となる▼多めに採用し、後から適当に切る魂胆としか思えない企業もあると聞く。泣いてクビを切れば心がある、とは言うまい。だが人は今、いよいよ自分たち人間を貶(おとし)めつつあるのではないか。せめて人を「モノ」としないモラルが企業人には欲しい▼〈切る側より切られん側に移行しぬ社歴三十年まことシンプル〉。11年たった長尾さんの最近の作だ。ほっとして、どこか悟った風が吹いてくる。「新卒切り」に血道を上げる上司たちは、これをどう読むことか。