機能不全が続く国際捕鯨委員会(IWC)の正常化問題で、主要捕鯨国の捕獲頭数を大幅削減するIWC議長案が示された。検討に値するが、科学的データを集める調査捕鯨を中止してはならない。
一九八〇年代後半から捕鯨支持国と反捕鯨国が鋭く対立し、非難合戦と多数派工作に明け暮れてきたIWC。二〇〇七年の総会を機に政治的休戦を求める声が高まり、ようやく妥協点探しの動きが活発化した。
マキエラ議長の提案は(1)現在、鯨肉を商取引する商業捕鯨や資源調査に主眼を置いた調査捕鯨、先住民に認められる生存捕鯨などに分かれているカテゴリーを取り払った上で捕獲頭数の上限を大幅に削減する(2)捕鯨操業の監視・取り締まり措置を導入(3)加盟国は海上での安全を脅かす行為を防止するため行動する−などが柱である。
暫定措置は一一年一月から二〇年十二月末までの十年間。
日本の捕獲頭数については(1)南極海のミンククジラは前半五年間が年四百頭、後半五年間は同二百頭とする(2)北西太平洋ではミンク、イワシ、ニタリ合わせて年二百二十二頭を十年間認める。
日本が長年主張してきた北西太平洋での沿岸小型捕鯨は認められるものの、南極海での調査捕鯨は姿を消し捕獲頭数も絞られる。
赤松広隆農相は〇九年度の調査捕鯨の実績が五百六頭と捕獲枠の半分程度だったことから、「議長案と大きな開きはない。捕獲頭数が減っても構わない」と語り、政治決着に意欲的である。
だが、加盟国の調査捕鯨の権利を縛ることは重大問題だ。
調査捕鯨は国際捕鯨取締条約で認められた加盟国の基本権であり、IWC自体が「鯨類資源の保存と捕鯨産業の秩序ある発展」を目的とする国際組織である。
日本が二十年以上にわたって続けてきた調査捕鯨は鯨類の生態系や繁殖力など多様なデータを集めており、食料資源として持続可能な利用を考える根拠となっている。これが捕鯨支持三十数カ国の主張を支えてきた。
議長案は「各国の原則と権利は害されない」というが、調査捕鯨が規制されればデータは蓄積できず十年後の捕鯨は困難になろう。
今年のIWC総会は来月二十一日からモロッコで開かれる。加盟国の間では「今年は正常化への最後のチャンス」との声もあるが、将来に禍根を残すような妥協は許されない。調査捕鯨の重要性をあらためて主張すべきである。
この記事を印刷する