インターネットの児童ポルノ画像を強制的に見られなくするブロッキングが導入される。被写体の子どもを守る仕組みだが、ネット利用者の通信の秘密が犠牲になるだけに十二分に注意を払いたい。
性的に虐待されて心身共に深手を負い、おびえて暮らす毎日。ポルノ画像の被写体になった子どもたちだ。ネットに出回った画像は世界中に永続的にさらされる。
二〇〇九年のネットを使った児童ポルノ事件の摘発は、五百七件に及んだ。前年の二倍だ。最近でも、男児の裸体画像を携帯電話サイトの掲示板に載せたとして、男女二十七人が警視庁に摘発された。サイトの開設者は、高校三年の少年だったというから衝撃的だ。
児童ポルノサイトは雨後のたけのこのように乱立する。昨年中に警察庁に通報された違法情報だけでも、少なくとも三千二百件余りに上った。摘発されるのは氷山の一角にすぎない。
そこで、画像の流通を防ぐ手だてとして検討されてきたのがブロッキングだ。ネット利用者が特定のアドレスのサイトへ接続しようとすると、ネット事業者が強制的に断ち切る手法だ。子どもの保護に有効だとして欧米諸国では早くから採用されている。
児童ポルノ規制が立ち遅れている日本でも、総務省や警察庁の後押しで年度内に導入される見通しとなった。第三者機関がブロッキング対象のアドレスリストを作成、管理し、ネット事業者がリストに基づき規制する。しかし、この仕組みは重大な問題をはらんでいることを忘れてはいけない。
まず、憲法や電気通信事業法で定める「通信の秘密」が侵害される。ネット事業者は利用者の通信内容を監視し、事前に登録した特定のサイトへの接続を検知して遮断する。いわば検閲行為だ。摘発や削除が難しく、ほかに子どもを守る手段がないときに限り、刑法の「緊急避難」の規定で法的に許されるという理屈なわけだ。
だが、課題も残る。児童ポルノ以外の、著作権やプライバシー権などを侵害するサイトにまで対象が広がらないか。もし合法サイトが見られなくなれば、今度は「表現の自由」が侵される。
第三者機関は信頼に足るのか、対象サイトをどう選び、トラブルが起きたらどう責任を取るのか。公権力やネット業界からの独立性や中立性の担保は重要だ。子どもの救済は一刻を争うが、リスクにも目を光らせたい。
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