観客には分かっているのに、登場人物は気づいていない。映画や演劇ではよくある設定だ▼そういう皮肉な状況を英語では、ドラマチック・アイロニー(劇的アイロニー)というらしい。最近の民主党、わけても小沢幹事長の振る舞いには、ちょっとそれを疑う▼例えば、夏の参院選に向けたマニフェストに消費税増税を盛り込むかどうかで民主党は迷っているようだ。財政再建重視の幹部は積極的だが、小沢さんは慎重らしい。一方、幹事長は、郵政民営化見直し法案は今国会で最優先して成立させる考えだ▼少し前には、いったん凍結した地方の高速道路建設を進めよと政府にねじ込んだ。その財源確保のため、政府は実質値上げの料金案をひねり出したが、悪評頻々とみるや幹事長はそれにもダメを出した▼個々に“公式”の理由はあろう。だが、名にし負う「選挙至上主義者」。消費税であれ郵政であれ高速であれ、あらゆる言動には、今この国のために、より、とにかく参院選の得票のために、「得」とみればゴー、「損」ならストップの文法が透けている▼確かに、小沢流で恩恵を受ける組織や人から得る票も多いのだろう。だが、その票目当ての算盤(そろばん)ずくを嫌気して離れる人より多いのだろうか。小沢さんと、この窮地に彼を恃(たの)む民主党の戦略は「劇的アイロニー」なのかどうか。答えは、夏になれば分かる。