HTTP/1.1 200 OK Date: Mon, 24 May 2010 22:15:38 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:中島敦の『名人伝』では、弓の修行を重ねた主人公は、最後には…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

筆洗

2010年5月24日

 中島敦の『名人伝』では、弓の修行を重ねた主人公は、最後にはついに、弓を見てもそれが何か分からない、という境地に達する▼名人と素人という両極端には相通じるところがある、という話にも、何かを極めていくと、さながら円周をぐるりと回るように、いずれ元の状態に戻るという話にも、思える▼先ごろ、H2Aロケット17号機で打ち上げられた「イカロス」に注目している。何しろ、エンジンも燃料も使わずに宇宙空間を“航海”する宇宙ヨットなのだ。帆に受けるのは風ならぬ光。特殊な帆全体が太陽光の粒子から受ける圧力はたった〇・二グラムだが、そこは重力も空気抵抗もない世界。半年かけて秒速百メートルほどにまで加速できるという▼航空宇宙科学が現在行き着いた粋の一つではあろう。だが、これも両極端は相通ずというもので、その推進原理は原初的な帆掛け舟のそれ。エコ時代の新エネルギーとして昨今盛んな風力発電が、古来の風車と同じ仕組みであることなども思い起こす▼自然の改変を進歩とみなしてきた人間だが、ぐるりと回ってまた元の場所に戻りかけているのか。それは、自然を超克するのではなく、風であれ光であれ、とにかく自然の力を借りる、という生き方である▼宇宙ヨットは六月上旬にも帆を広げる作業を開始する。その先行きの、順風、いや、順“光”満帆なることを祈る。

 

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