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雪解けの羅臼岳(らうすだけ)は白黒の肌をさらし、アイヌ民族がレプンカムイ(沖の神)とあがめるシャチを思わせた。陸と海がユネスコの世界自然遺産に登録されて間もなく5年。北海道の知床半島を訪れた▼遺産地域に入るやいなや、エゾシカの群れ、キタキツネ、ヒグマに出会った。青空ながら、知床連山からの吹き下ろしがクマイザサの群生をもてあそぶ。ダケカンバやトドマツのくすんだ森に、薄紅を散らしてエゾヤマザクラ、白はキタコブシ。待ちこがれた春である▼一角で、地元斜里(しゃり)高校の1年生が植樹をしていた。引率の植木玲一教諭(43)が語る。「豊かな自然を当たり前と思っている生徒に、それを真剣に残そうとする大人たちの姿を見せておきたい」▼斜里町が植樹を始めたのは33年前だ。広く寄金を募り、開拓者が手放した農地を森に戻す運動は、乱開発の防波堤となった。町長を5期務めた午来昌(ごらい・さかえ)さん(73)は「世界遺産は出発点。住民は誇りを持ってこの地を守ってほしい」という▼状況は甘くない。アイヌの守護神シマフクロウは残り約120羽とされる。巨体が収まる大木が消え、餌の魚はコンクリに阻まれ川を上れない。一方で、急増するエゾシカは木々を食い荒らす。ひとたび崩れた生態系は厄介だ▼希望もある。知床の価値と苦闘を知って、全国から生物や環境の専門家が参じ、午来さんらが作った知床財団を拠点に奔走している。財団のサポーター(賛助会員)になろうと思う。一つ一つの遺産を磨くことが、ひいては地球と人間を救う。ひとごとではない。