十月に名古屋市で開かれる生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)を踏まえ、国連の潘基文事務総長は「生物多様性は、私たち自身の生命の問題」と訴える。あすは国際生物多様性の日。
生物多様性条約は一九九二年、温暖化防止の気候変動枠組み条約とほぼ同時に誕生し、「双子の条約」といわれている。五月二十二日はそれが採択された日だ。
毎年地球上では、すさまじい速さで生きものの種類が減っている。そのスピードにブレーキをかけるのが、COP10最大の目的だ。
アクセルを踏み続けているのが人間で、それにより最も大きな打撃を受けるのも、ほかならぬ人間だからである。人間はいのちの恵みを最も享受して生きている。
生物多様性条約事務局は今月十日、生きものを取り巻く環境を評価した「地球規模生物多様性概況第三版(GBO3)」を公表した。その中で、二〇〇二年にオランダ・ハーグのCOP6で採択した、一〇年までに最初のブレーキをかけるための目標はことごとく達成できず、失敗だったと結論づけた。名古屋会議でより効果的な新目標を定めることができないと、人間はすべての生きものと手を携えて、猛スピードで危険な坂を下ることになる。
口蹄(こうてい)疫が猛威を振るっている。ウイルスという微小な存在が、牛や豚のいのちを損なう。すると人間は、牛や豚から、いのちの恵みを受けられなくなってしまう。いのちのつながりとは、例えばこういうものではないか。
地元では、ようやくCOP10の名前が売れてきた。「名前ぐらいは聞いたことがある市民なら、八割を超えるでしょう」と、名古屋市生物多様性企画室は考える。ところが、名古屋商工会議所の調査では、会員企業の約三割が、COP10について「これから知りたい」というものの、六割強が「関連がない」と答えている。他都市での認知度は察するに余りある。だが、決して関係なくはない。
十六日、名古屋市内で本社が開いた「いきもの地球会議」シンポジウムで、JT生命誌研究館長の中村桂子さんらパネリストは「身の回りにあふれるいのちに、まず、まなざしを注いでほしい」と呼びかけた。
草木もいのち、ご飯もいのち、人間も一つのいのち。そう思って周りを見れば、その精緻(せいち)なつながりが次第にはっきりと見えてくるはずだ。
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