HTTP/1.1 200 OK Date: Thu, 20 May 2010 21:15:32 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:裁判員1年 より成熟した制度へ:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

裁判員1年 より成熟した制度へ

2010年5月20日

 裁判員制度が始まり、一年となる。「よい経験」と感じた市民が大半で、司法への市民参加の意義は評価できる。今後は難しい事件などが予想されるだけに、どう制度を成熟させていくかが課題だ。

 最高裁が裁判員経験者に行ったアンケート結果では、「よい経験だった」との回答が、実に96・7%を占めた。参加前には55・7%が消極的だった人々である。

 審理について「理解しやすかった」、判決に至る評議についても「十分に議論できた」との回答が70%を超えている。「司法に対する国民の理解の増進」をうたった裁判員制度の趣旨が、順調に浸透していることがうかがえる。

 それゆえ裁判員の体験を伝えることも大事だ。だが、現在は感想にとどまり、評議の過程などについては、守秘義務の壁で語ることができない。貴重な体験や知識を社会全体で共有、蓄積するためにも、検証機関を設けて、どう判断したのかを述べてもらうなど、裁判員の経験を生かす工夫があってもよいと考える。

 冤罪(えんざい)防止の観点をもっと重視する必要もある。取り調べ過程を全面録画する可視化、自白しないとなかなか保釈されない「人質司法」の問題など、捜査の仕組みを変えることが冤罪を防ぐことにつながろう。証拠の全面開示も、被告人に有利な証拠を弁護人が見つけ出すことになりうる。少なくとも検察側がどんな証拠を持っているか、そのリストを明らかにすることは検討すべきである。

 裁判員裁判が始まる前には、争点を絞り込む公判前整理手続きが行われる。この手続きに時間がとられ、初公判が遅れる傾向にある。最高裁は「被告の拘置期間が長くなり、証人の証言などの証拠価値を低下させる。的を絞った審理計画を立て、早く審理に入ることが課題」と指摘している。

 一方で、手続きを迅速化した結果、裁判自体が粗雑になる恐れもあろう。被告人に有利な証拠を探すには、十分な時間が必要だという専門家の声も傾聴に値する。

 裁判員が死刑判断を迫られるケースはまだない。今後、世の中を揺さぶる大型事件なども予想される。

 組織力をもつ検察に比べ、弁護側の技量不足が指摘される点も課題である。真価が問われるのは、むしろこれからだ。

 保護観察など司法全般の仕組みにも関心が広がれば、新制度の意義はさらに深まる。

 

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