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覆水、盆に返らず。今更、日米合意の現行案に限りなく近い形に戻すといっても、解決にたどりつけるとは思えない。負担を引き受ける沖縄の理解を後回しにするやり方が通るだろうか。
米海兵隊普天間飛行場の移設問題で、日米両政府が今月末、外務・防衛担当閣僚名で共同声明を発表する方向で最終調整に入った。
移設先は名護市辺野古周辺と明記されそうだ。具体的な工法には触れないが、鳩山政権が提案した桟橋方式に米国側が難色を示していることから、最終的には埋め立てが採用されるとの見方が強まっている。
鳩山由紀夫首相としては、共同声明という体裁を整え、「5月末決着」を果たしたと言いたいのだろう。
しかし、この進め方は今後に大きな禍根を残す。
首相はこれまで、沖縄と米国双方の理解を得て案をまとめると繰り返してきた。沖縄が反対する県内移設を米国と合意して政府方針とするなら、鳩山政権が結局は沖縄よりも米国との関係を優先したということになる。
首相が現行案の見直しに挑戦したのは、在日米軍基地の75%が集中する沖縄の負担を軽減し、国外・県外移設を求める県民の願いに何とか応えたいという思いからではなかったのか。
それが、本気で「県外」への糸口を探ることもないまま公約をほごにし、沖縄の頭越しに米国と手を握るというのでは、県民の目には二重の裏切りと映るに違いない。
北朝鮮の魚雷による韓国哨戒艦沈没やイランの核開発問題など、日米関係をいつまでもきしませたままにできない事情はある。同盟関係維持の大切さは言うまでもない。
しかし、基地問題を解決するには、沖縄との信頼関係が決定的に重要だ。
沖縄の政治状況はこの間、様変わりした。国外・県外移設を求める世論はかつてない高まりをみせ、名護市では初めて移設反対派の市長が誕生した。
辺野古移設を条件つきで容認していた仲井真弘多知事といえども、簡単に同意できる立場ではない。新たな日米合意を盾に辺野古移設を強行すれば、大きな混乱は避けられまい。
2014年までの移設完了という現行案の日程が実現できなくなることも大いにありうる。そんな展開は米国にとっても望ましくないだろう。
鳩山政権のこれまでの迷走は見るに堪えないが、安保の負担を沖縄に押しつけてきた差別的構造を見つめ直し、国民全体で安保を考えようという機運も一部には出始めている。世論の前向きな変化の腰を折ることになるなら、首相の罪は重大である。
態勢を立て直し、安保とその負担のあり方を米国と、沖縄と、そして国会で議論し直すことを改めて求める。
46人もの兵士が犠牲になった韓国軍の哨戒艦の沈没は、北朝鮮製の魚雷によるものだった。そして、それは「北朝鮮の小型潜水艦艇からの発射以外に説明がつかない」。5カ国からなる合同調査団がきのう、そう発表した。
戦争の引き金になりかねない撃沈だったということだ。日本を含む東アジア全体の安全をも大きく揺るがす許しがたい暴挙である。
動機は不明だ。金正日総書記への忠誠心競争が暴走した結果なのか。軍の威信を高め、後継体制づくりに利用しようとしたのか。昨秋、北朝鮮艦艇が海上の事実上の境界を南に下って韓国軍に撃退されたが、その報復との見方もある。いずれにしても異様な国家の異様な行動である。
北朝鮮は報告書を「でっち上げだ」としている。だが、1968年には韓国大統領府への襲撃を図った。83年にビルマ(現ミャンマー)訪問の大統領一行を狙ったラングーン爆弾テロ、87年の大韓航空機爆破と、韓国に対してテロを繰り返してきたが、北朝鮮は関与を認めていない。
冒険主義に走ることをいとわない危うい体制であることが改めて如実に示された。
しかし、この攻撃は北朝鮮自身にとっても無謀の度が過ぎたのではないか。経済の窮状は深刻化し、金総書記は健康不安を抱えている。国の先行きはますます不透明になっている。
また、決定的とも言える証拠が出たことで、これまでそれぞれの思惑から事態を大きく動かすことに慎重だった周辺国も態度を変える可能性がある。
韓国の国民の憤りは激しい。李明博大統領は「断固たる対応措置をとる」と語った。国連安全保障理事会での制裁を呼びかける方針だという。
北朝鮮にこれ以上の暴挙を重ねさせてはならない。同時に朝鮮半島の緊張をいたずらに高めない。これは日本を含め地域全体で取り組むべき課題だ。
まず、米中の役割が大きい。ことに中国が重要な役割を担わねばならない。さきの金総書記の訪中では、経済支援などで中朝間に溝があったともいう。北朝鮮の言動を中国が不快に思っているからでもあろう。中国には、経済面での強い影響力を生かし、北朝鮮の挑発的な行動を抑え、外交の場に引き出す努力を続けてもらいたい。
鳩山由紀夫首相は「韓国、米国をはじめ関係各国と緊密に連携・協力していく」と述べた。きょうクリントン米国務長官が来日して鳩山首相らと会談する。長官は中韓も歴訪する。月末には日中韓の首脳会議も開かれる。
北朝鮮は東アジアで最大の不安定要因であり、この事件はすぐれて日本の問題でもある。米国、韓国との深い関係を生かし、中国に働きかけを強める。外交努力が待ったなしだ。