HTTP/1.0 200 OK Server: Apache Content-Length: 50406 Content-Type: text/html ETag: "add62-15ae-33805300" Expires: Thu, 20 May 2010 00:21:37 GMT Cache-Control: max-age=0, no-cache Pragma: no-cache Date: Thu, 20 May 2010 00:21:37 GMT Connection: close アスベスト判決 国の怠慢が被害を拡大させた : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)



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アスベスト判決 国の怠慢が被害を拡大させた(5月20日付・読売社説)

 アスベスト(石綿)の危険性を早くから知りながら、国は必要な対策を怠り、健康被害を拡大させた――。

 大阪府南部・泉南地域の石綿紡織工場で働き、石綿肺(じん肺)や肺がんになった元従業員や家族らが国家賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は国に約4億3500万円の支払いを命じる判決を出した。

 石綿被害をめぐり、国の責任を認めた初の司法判断である。東京、横浜、神戸の各地裁で争われている同種訴訟にも、大きな影響を与えるだろう。

 判決は、旧じん肺法が成立した1960年までに、国として排気装置の設置を義務付けるなど、危険性を減らし、被害の拡大を防ぐための省令を制定しなかったことを、違法と認定した。

 72年には肺がん、中皮腫との因果関係について医学的見解が明らかになったのに、粉じん濃度の測定結果の報告や改善措置を義務付けなかったことも違法とした。

 「権限の不行使が、許容される限度を逸脱し、著しく合理性を欠き違法」と、判決は国の怠慢を厳しく批判している。

 泉南地域には明治末期から石綿関連の工場が多数集まり、戦前は軍需産業、戦後は国の基幹産業を下支えしてきた。零細業者がほとんどで、従業員は危険性の認識もないまま石綿を吸い込み続け、病に侵されていった。

 その点を判決は、「国民に対する石綿被害や危険性に関する適切な情報提供についても、やはり国は怠ったと言わざるを得ない」と指摘した。危険情報が早期に伝えられていれば、被害の拡大はもっと抑えられたかもしれない。

 石綿の吸引から病気発症までは長い潜伏期間があり、粉じんと被害の因果関係はわかりにくい。しかし、海外の研究や泉南地域での医学・疫学調査の結果は、因果関係を指摘していた。国がこれらを軽視してきた責任も重大だ。

 行政の不作為をめぐっては、筑豊じん肺訴訟や関西水俣病訴訟の最高裁判決(いずれも2004年)が、国に賠償を命じるなど流れが定着しつつある。国民の健康、安全を守る行政の責任はますます重くなっている。

 世界保健機関(WHO)が石綿の発がん性を警告した72年以降も、日本では経済成長の波に乗り石綿の大量消費が続いていた。

 それが今、ビルや学校などの解体現場で問題化しつつある。国は石綿被害の解消に真剣に取り組んでもらいたい。

2010年5月20日01時46分  読売新聞)
東京本社発行の最終版から掲載しています。
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