ある程度予想されたとはいえ、新料金体系の六月実施断念は高速道路政策の迷走ぶりをあらためて痛感させる。国民生活の根幹である社会資本運用の施策がこんなにぐらついて、どうするのか。
今年に入って鳩山政権の高速道路をめぐる政策は、月単位で猫の目のように変わってきたといっても過言ではない。
もともと民主党が政権公約で、高速道路無料化を打ち出していたのは周知の通りである。その是非はともかく二月に、「社会実験」として六月から実施と明らかにされたのは、予算縮減などで地方中心にわずか18%の三十七路線五十区間にとどまる。
ところが三月には、これまでの料金割引原資を高速道路の新規建設への転用を可能にする道路整備事業財政特別措置法の改正案が閣議決定となり、今も国会審議が続いている。
さらに四月には、普通車上限二千円などの新料金体系が発表された。しかし実質値上げとの批判で見直し論議の末に、今回の新料金体系の六月実施見送りである。
もともと高速道路無料化自体が受益者負担の原則と食い違い、他の公共交通機関への影響を無視、また排ガス量増加の疑問など、多くの国民の支持があるとも思えない。それはさておいても、新規建設への転用を可能にし料金割引の原資を減らしておいて、実質値上げの新料金を見直すなど、矛盾も甚だしい。
割引原資の転用、新料金の見直しはいずれも党側の要求で、とくに小沢一郎幹事長の意向が働いているのは明らかである。どんな理由づけをしても、近づく参院選を意識しているとの見方も間違っていないだろう。
新料金の六月実施断念で、前政権が導入した休日上限千円などの現行割引は当面、続けられる。また一部の路線区間無料化の社会実験は、予定通り六月下旬から始まる。継ぎはぎだらけの現政権の施策が、もともと基本的な考えを異にする前政権の施策に接ぎ木されることで、高速道路をめぐる政策はますますいびつになる。
現政権からもはや、筋の通った高速道路に関する政策は期待できないのだろうか。官僚が背後に退き、政治主導で国民生活に重大な意義を持つ政策が決まるのは、抽象論としては正論である。だが具体的な場面で、選挙目当ての小手先細工が幅を利かせては、元も子もない。厳しい有権者の視線を保持したい。
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