宮崎県の口蹄疫(こうていえき)拡大が止まらない。殺処分の対象は牛と豚約八万六千頭と、前回発生時の百倍を大きく超える。被害拡大の背景に「家畜の病気だから」と甘く見る気持ちはなかったか。
口蹄疫は、牛や豚など、特定の家畜がかかる伝染病だ。口の中やひづめの付け根に水疱(すいほう)ができるのが特徴で、人間には伝染しない。病獣の肉を食べたりしても特に問題はない。しかし、伝染力が強いため、感染の疑いが持たれると、国の防疫指針により、殺処分して埋めることになっている。国内では二〇〇〇年にも宮崎県で三十五頭、北海道で七百五頭、いずれも牛のみが被害に遭った。
今回爆発的に広がったのは、感染地が畜産密集地帯だったこと、感染が早い豚の被害が出たことなどもあるだろう。だが、対策の立ち上がりも遅かった。
三月末ごろから、家畜の異変が県に報告されていたものの、経過観察程度で検査が遅れ、四月下旬になってようやく陽性が確認されている。感染が激しく拡大し始めた五月初め、赤松広隆農相は、遠く中南米へ外遊中だった。隣の韓国でも今年一月、八年ぶりに流行していたことを思えば、国内上陸の恐れに対し、もっと敏感であってもいいはずだ。
前回の封じ込め成功で、口蹄疫という病気を甘く見て、「人には感染しない」と高をくくっていなかったか。事態を収束させたあと、十分な検証が必要だ。
鳥インフルエンザは、人への感染が確認されて初めて、本格対応が始まった。今回も人的被害は出ていないが、「宮崎牛」は県を代表するブランドだ。松阪牛や近江牛なども、子牛の供給を宮崎県に負っている。被害は種牛にまで及んでいる。県民が宝と誇る、いわば基幹産業の中枢だ。他県にも及んだ経済的被害だけでなく、手塩にかけた家畜を殺す、生産者の精神的打撃は計り知れない。
初動の遅れは取り戻せない。今は、感染の拡大防止に政府として万全を期すべきだ。ウイルスは、人の移動や風に乗っても運ばれる。完全に封じ込めるのは難しい。他地域との情報交換を密にし、小さな異常もおろそかにせず、素早く対応するしかない。
現地では消毒液が不足し、獣医師が足りずに、事後の処分が進んでいない。国による人的、物的支援も急務である。そして、こういう時こそ農家に対し、できる限りの“戸別補償”が必要だ。
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