自動車や電機など主要企業の二〇一〇年三月期決算がピークを迎えた。一年前の危機的業績から一転、V字型回復となった企業が目立つ。一息ついたが、厳しい経営環境に気を抜いてはいけない。
「この三月期決算は大幅に上振れした。製造業だけでなく非製造業も四半期ごとに改善し、当初予想を上回る経常利益を計上する企業がかなり増えた」−野村証券金融経済研究所のエコノミストは声を弾ませる。
企業の決算発表にも余裕が見て取れる。トヨタ自動車など自動車八社は売上高こそ全社減収だったが営業利益は全社が黒字だった。電機業界でも日立製作所など九社全部が営業黒字を確保した。
回復理由ははっきりしている。主要国は金融危機と世界不況を克服すべく一斉に景気対策を実行した。とくに中国は鉄道や住宅など大規模な内需拡大策を推進。これが日本などの輸出拡大をもたらし、世界経済を引っ張った。
日本政府は自動車のエコカー補助金や家電製品のエコポイントを導入して消費を盛り上げた。
加えて企業は必死になってコストを削減した。派遣や契約社員など非正規雇用労働者を削減するとともに正社員の賃金も抑制。さらに設備投資を絞るなど、固定費を徹底的に減らした。
その成果が今回の決算である。新興国の需要増と景気対策、そして消費が回復すれば一一年三月期はかなりの好決算になろう。
だが、現在の好況は緊急避難措置の上に築かれたものだ。
各国の財政支出の拡大には限界がある。企業のコスト削減も、失業者や低所得者の増加など労働者の負担や中小企業の犠牲に支えられているから長続きしない。現在の好調さは将来の需要を先食いしている可能性がある。
世界経済を見れば、周期的に金融危機を繰り返しがちだ。企業経営は国内市場の縮小対策に加え、原材料価格の高騰や円高という海外の不安定要因にも機敏に対処しなければならない。
したがって業績回復を次の飛躍に結び付けることが肝心だ。日本企業の発展は技術開発と人材育成の強化が鍵を握る。自社の経営資源を厳しく点検して成長戦略を確立する。人件費はコストではなく投資と考えたい。
その意味でトップの責任は極めて重い。今年も新社長が数多く登場したが、経営方針の明確化と私心のない会社運営が基本的条件である。内紛騒ぎなどは論外だ。
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