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宮崎県で広がる家畜の伝染病、口蹄疫(こうていえき)の影響が深刻になっている。
殺処分の対象になった牛や豚が8万頭を超える。宮崎牛ブランドを支える貴重な種牛にも感染の疑いが出て処分の対象になった。
これらの牛で種付けされた子牛は、松阪牛や近江牛などの産地にも出荷されている。種牛の一部は離れた場所に避難しているが、供給が減れば影響は全国に及ぶおそれもある。
感染や被害が広がらないよう、政府は対策を加速しなければならない。
口蹄疫は、牛や豚、羊など蹄(ひづめ)のある動物がかかる伝染病で、発熱して口の中に水ぶくれができ、乳の出が悪くなったり肉質が落ちたりする。感染力が強く、最もこわい伝染病の一つだ。
国内で口蹄疫が見つかったのは、92年ぶりに発生した2000年春以来だ。このときは、宮崎県と北海道で740頭の牛が処分された。
今回は、4月20日に宮崎県で最初に牛の感染が確認され、半径10キロ以内の家畜の移動禁止措置がとられたが、5月に入って豚を中心に感染が急増した。人の靴や衣服についてウイルスが広がったようだ。殺処分の対象になった家畜はすでに前回の100倍以上とけた違いの規模だ。
前回のウイルスは牛にしか感染しなかったが、今回は豚も含めて広く感染している。英国では01年、発見の遅れもあって大流行を招き、数百万頭が処分された。このときのウイルスも牛、豚、羊などに感染するタイプだった。
今流行しているウイルスは、遺伝子の解析から韓国や香港で流行しているものと非常に似ていることがわかっている。ウイルスが畜産物や人などについて運ばれてきた可能性がある。
韓国では1月から始まった流行がまだ続き、対策に手を焼いている。ウイルスが日本に入ってきて不思議はない状況だった。事前の警戒や備えは十分だったか、反省材料だろう。
現地では、家畜の殺処分が決まっても、埋める場所がなく、そのまま飼育を続けなければならない例も多いという。畜産農家は経済的な打撃に加え、精神的な疲労も濃い。拡大防止のためにも、農家の支援が大切だ。
今のところ、感染は同県内の一部の地域にとどまっているが、ほかの都道府県にも広がるおそれはある。平野博文官房長官は16日、現地入りし、東国原英夫知事と対策を協議した。家畜の伝染病対策は法律上、まず県の責任だとしても、県外への感染拡大の恐れや被害の規模を考えれば、政府が主導して迅速に態勢を整えるべきだ。
消費者にも冷静な対応が求められる。感染した家畜の肉は市場には出回らないし、仮に食べても人には感染の恐れはない。風評被害で農家を苦しめるようなことは慎みたい。
ロシアで、プーチン前大統領が首相として権力中枢にとどまる「双頭体制」の発足から2年がたった。メドベージェフ大統領の任期4年の折り返しを迎え、政権運営に明らかな変化が見える。剛腕の首相より柔軟な大統領の主導で、ソ連時代からの古い体質の克服を目指す政策が加速している。
このことに今、目をこらしたい。
政権が発足した当初、プーチン氏の権威は圧倒的だった。大統領を務めた8年間に続いた経済の高度成長が、国民の強い支持につながっていた。
しかし、まもなく起きた世界金融危機で情勢は大きく様変わりした。
有数の埋蔵量を誇る石油と天然ガスの高値に支えられた経済は、その急落で手ひどい打撃を受けた。回復も遅く、ともに世界経済を牽引(けんいん)してきた4大新興国BRICs(ブリックス)で中国、インド、ブラジルからひとり取り残された。
エネルギー資源など経済の重要分野を政府の統制下に置き、外交での影響力行使の手段にも使う。強権で野党やメディアを締めつけ、国の安定を保つ。グルジアとの軍事紛争のように、米欧はじめ国際社会と対立してもロシアの立場を強硬に主張する。そうしたプーチン流の政治が、壁に突き当たっていることは明らかである。
これに対し、メドベージェフ氏は危機を改革の好機に転じようとしている。経済では資源依存からの脱却と多角化、現代化、対外政策では国際社会との協調を唱える。
実際、プーチン氏が経済の危機対応に追われるのを横目に、メドベージェフ氏はロシアの持病ともいえる汚職対策に本格的に取り組み始めた。内務省幹部の大幅削減でプーチン氏の牙城(がじょう)である治安省庁にも切り込んだ。
確かに、政権の要所を側近で固めるプーチン氏の影響力はまだ根強い。野党勢力やメディアへの統制はさほどゆるまず、旧ソ連諸国を自分の勢力圏と見なす態度も変わらない。
だが、政権内の二つの流れのうち、メドベージェフ路線の方が政権内で力を得てきているのは確かなようだ。
大統領は、対米関係をオバマ大統領とリセットし、戦略核の新たな削減で合意した。米欧との関係修復は、米英仏軍が参加した先の対独戦勝65年式典に結実した。いまは外国からの資本や技術の導入に強い意欲を示し、経済成長著しいアジア・太平洋地域も重視している。
とりわけ日本には、シベリアや極東の開発をにらんで投資や技術を引き入れようとの働きかけが活発だ。中国の強大化や北朝鮮の核問題を抱える東アジア情勢の中で、日本にとってもロシアとの重層的な協力関係の構築は、重要な課題だ。
そんな大きな構図を視野において、ロシアの動きに柔軟に対応したい。