B型肝炎集団訴訟をめぐり、国は原告側との和解協議のテーブルに着く。だが、救済範囲や賠償額について双方の主張の隔たりは大きい。粘り強く話し合い、早期に妥協点を見つけてもらいたい。
「国には真っ先に謝罪してほしい」。それが心身ともにさいなまれ、経済的にも苦しんできた原告の共通の思いだ。
免疫力が弱い乳幼児期の集団予防接種で注射器を使い回されてB型肝炎ウイルスに感染したとして、患者や遺族ら四百二十人が国に損害賠償を求めて全国十地裁で訴訟を起こしている。既に肝がんや肝硬変で亡くなったり、余命を宣告されたりした感染者もいる。
今年三月に札幌地裁が出した初の和解勧告に応じ、国は十四日から原告側との協議を始める。福岡地裁や大阪地裁の和解勧告にも応じるもようだ。
予防接種が義務付けられたのは一九四八年だ。国はウイルス感染の危険性を知りながら四十年間も注射器の使い回しを放置した。原告側はそう主張し、注射器の交換を通達した八八年ごろまでに、六歳以下で接種を受けた感染者の幅広い救済を訴えている。
B型肝炎ウイルスの感染者は国の推計で最大百四十万人。このうちどれくらいが集団予防接種による感染者かははっきりしない。国の腰が重かったのは、救済範囲と賠償額によっては膨大な財源が必要になるからとされる。
それでも、患者ら五人が起こした訴訟で最高裁は二〇〇六年、集団予防接種が原因だったと認め、国に対して一人五百五十万円の賠償を命じた。国の責任が認定されている以上、財源不足を理由とした解決の先送りは許されない。
この事例では、幸い母子手帳で接種記録が確かめられ、母親の血液検査で母子感染ではなく接種が原因だと認められた。だが、今の感染者には母子手帳のない人や母親が亡くなっている人は多い。
予防接種は法的義務だったから母子手帳での証明は不要だ。母子感染かどうかは、兄弟姉妹の血液検査などでも分かる。それが原告側の言い分だ。
さらに、賠償額について原告側は、薬害C型肝炎救済法の一時金千二百万〜四千万円を基準とするよう求めている。同じ国の落ち度による被害だ。“救済格差”は受け入れられないという。
患者にとっては時間との闘いでもある。実のある交渉を重ね、早く決着を図ってほしい。
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