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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
都心を歩くと、しばしば正体不明の大行列に出くわす。先日も原宿で、女性ばかり数百人が並んでいた。整理にあたる男女が首から下げた札が妙だった。〈関係者〉である。スタッフというのは何度か見たが、これは初めてだ▼記者なら避けたい言い回しの一つに、「関係者によると」がある。情報源を示すのにこれほど曖昧(あいまい)な表現はない。行列にあれこれ指図する〈関係者〉も、どう関係しているのやら分からない。どこかの店が雇うのだろうが、権限はあっても責任のない、便利な肩書にみえる▼コンビニやファストフード店では普通、アルバイトは名札をつける。言動にはおのずと責任が伴い、客も安心できる。安全運転のため、車にドライバー名を掲げる宅配業者も多い▼むろん「名無し」だから無責任とは限らない。詩人の谷川俊太郎さんが、東京新聞で無名性へのあこがれを語っていた。「万葉集でも『読み人知らず』なんてのが、たくさんあるわけじゃないですか。ああいうふうに残っていくのが一番いい」▼例として挙げたのは〈空をこえて/ラララ星のかなた〉で始まるテレビアニメ「鉄腕アトム」の主題歌だ。〈科学の子〉が鮮烈なこの詞、谷川さんの作と知る人は博識の部類に入る▼言葉の巨人は、名より作品を語り継いでほしいと願う。広く長く口ずさまれた末に、「これ誰だっけ」と言われる幸せである。黙々と良品を世に送る職人が味わうような、まじり気のない喜びであろう。責任論を突き抜けて、有名を超える無名。その高みを、小欄も目ざしたい。