HTTP/1.1 200 OK Date: Fri, 14 May 2010 03:15:12 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:ビラ配布有罪 時代に沿う法改正も:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

ビラ配布有罪 時代に沿う法改正も

2010年5月14日

 政党ビラを配布し、国家公務員法違反に問われた元厚生労働省職員が二審でも有罪となった。表現の自由を重くみて、同種事件を無罪とした判決もある。時代の流れをくんだ法改正も検討すべきだ。

 「政党機関紙の配布は、党派的偏向が強く、公務員の政治的中立性を損なう恐れが大きい」

 東京高裁が一審に続き、有罪に導いた判決理由は、このような内容だ。厚労省の元課長補佐は二〇〇五年の総選挙の前日に共産党機関紙号外を配布していた。

 だが、三月下旬に元社会保険庁職員に出された高裁判決は「無罪」だった。共産党機関紙を配布したという、ほぼ同様の起訴内容でありながら、今回は全く異なる判断をしたことになる。

 元社保庁職員のケースで、別の裁判長は「表現の自由がとりわけ重要な権利だという認識が深まっている」ことや、東西冷戦が終息し、左右のイデオロギー対立の状況が落ち着いた時代の変化も踏まえた。「世界標準という視点から見る必要がある時代」とも述べていた。

 公務員を「お上」視して、ことさら「官」の影響力を強く考える傾向にあった時代でもない。公務員に対する国民の意識も変わったことなども考え、無罪という結論に至ったのだ。極めて画期的な判決だったといえる。

 それに比べると、今回の有罪判決は一九七四年の「猿払(さるふつ)事件」の最高裁判例をそのまま踏襲し、形式的に当てはめただけの印象だ。

 ビラ配布での公務員起訴には、国連の国際人権規約委員会が〇八年に懸念を表明し、日本政府に表現の自由への不合理な制限を撤廃すべきだと勧告もした。

 そもそも、「政治的行為の制限」を定めた国家公務員法の条文や人事院規則は、米国の法律が基となったとされる。その米国では九三年に法改正がなされ、勤務時間外や勤務場所以外の政治活動は自由となった。

 「公務員の完全な政治的中立の維持は不可能」という学説もある。公務と私生活を区別せず、職務権限や勤務時間の内外を問わずに全面的に政治活動を禁止し、反すると刑事罰を科すのは、あまりに制限が広すぎる。

 日本弁護士連合会は、同法の罰則規定を改めるように求めている。公務員といえども一市民である。表現の自由への規制が最小限であるべく、政治の側が法を再検討する時といえよう。

 

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