英語で「先送りにする」はshelve。即(すなわ)ち「棚上げにする」だ。どっちにしろ、「決着」「決断」といったきっぱりした言葉に比べ、何か問題にけりをつけることから逃げているような後ろ向きの感じがある▼でも、一つの知恵ではないかという気もするのだ。異論がせめぎ合う時、決着を急げば衝突になる。今、その場で問題を突き詰めれば行き詰まるかもしれない。そんな時だ。結論の「先送り」や問題の「棚上げ」が役立つのは▼昨日また、やりきれない数字が警察庁から公表された。昨年、自殺した人の年代や動機別の統計。自殺者年三万人突破は十二年連続で、人口十万人当たりの自殺者数、いわゆる「自殺率」は二十代、三十代で過去最悪だった▼人を自裁へと追い込むほどの問題に簡単な解決策のあるはずがない。けれど、こうは思う。死という決着を急がず、一時間でも一日でも、その状況を「先送り」「棚上げ」にはできないか、と▼かつて、こんな女性の話を記事にしたことがある。彼女はある理由で自殺の瀬戸際までいくのだが、カレンダーに×印をつけ「一日生き延びた」「また一日生き延びた」と先送りを続けた。そしてついに、思いとどまった▼「先送り」では、問題自体が今すぐ消え去ることはない。それでも、チャンスを与えてみてほしいのだ。あらゆるものを変化させる、「時間」に。