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天声人語

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2010年5月14日(金)付

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 将棋の元名人で、現役55年を誇る加藤一二三(ひふみ)さん(70)には、ものごとへの「こだわり」を語る伝説が多い。盤上では居飛車に棒銀、対局中のネクタイは長いがシャツの袖は短め、暖房は静かな電気ストーブで、出前は昼夜ともうな重と決めている▼タイトル戦を指す旅館で、音が気になると庭の人工滝を止めさせた話は有名だ。その九段にして、こだわりの一手が通らぬこともある。加藤さんが東京地裁立川支部に204万円の支払いを命じられた▼争いの舞台は、棋士が住む庭つき集合住宅。加藤さんは長らく玄関先や庭で、多い時には約20匹の野良猫に餌を与えてきた。増やさぬ努力はしたものの、フンや鳴き声に悩む住民たちが裁判に訴え、餌やり中止と慰謝料の判決が下った▼「迷惑」は加藤さんの鼻や耳にも届いていたろうが、「動物愛護だ」と一歩も引かなかった。裁判所に禁じ手と断じられ、控訴するそうだ。5年前の公式戦で反則をとがめられて以来の〈待った〉である▼住居ひしめく大都市では、餌づけで野良猫が居着いたといったもめごとが絶えない。飼い猫と野良猫の間に、皆でかわいがる「地域猫」がいる。フンの処理や不妊手術まで、近隣で責任を分かち合う工夫だ▼腹ぺこの子猫がにゃーと鳴けば、誰しもぐっとくる。かといって、勝手に地域猫を始められても困るし、人になれた猫は虐待の的にもなりやすい。判決文に「一代限りの命を尊重しながら、時間をかけて野良猫の総数を減らしていく必要がある」とあった。「捨てないで」と受け止めたい。

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