HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Wed, 12 May 2010 23:14:21 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:一九六四年、一人の女性がニューヨークの自宅アパート前で暴漢…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

筆洗

2010年5月13日

 一九六四年、一人の女性がニューヨークの自宅アパート前で暴漢に刺殺された▼後に報道されたところだと、その様子を実に三十八人ものアパートの住人が部屋の窓などから目撃していたのに、襲われてから死亡するまで半時間以上もの間、誰一人救助しようとせず、警察に通報さえしなかったのだという▼「こんなに目撃者がいるのだから誰かが救助や通報をするだろう」といった心理が働いたためと考えられている。被害者の名から「キティ・ジェノヴィーズ事件」と呼ばれる。心理学でいう、「傍観者効果」の典型例として知られる▼緊急事態を前にしたのが自分だけなら、対応は自分の責任になるが、大勢いると責任が拡散する。むしろ目撃者が多いほど、援助行動が抑制されやすくなることは心理学の実験でも確かめられているそうだ▼心配になるのは地球規模の“緊急事態”への対応である。例えば生物多様性の保護。日本を含む多様性条約の締約国は、八年前、「二〇一〇年までに多様性の損失速度を顕著に減速させる」との国際目標を決めたが、条約事務局は最近、「目標達成は失敗」と結論した▼地球温暖化防止もしかり、“目撃者”は三十八人どころか人類全部ともいえる。これほど「傍観者効果」が働きやすい状況もあるまい。地球や生き物の行く末を、あの気の毒な女性の最期のようにはしたくない。

 

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