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天声人語

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2010年5月13日(木)付

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 東京と青森を鉄路が結んだのは明治半ば、一昼夜の道程だった。昭和の初め、東京帝大に入る太宰治は「文士になって女を描きたい」と残し、津軽を後にした。幾多の青い志が同じ路(みち)をたどる▼〈東京へ行きたい/と思いながら/自分の心臓の部分にそっと手をあててみるとその最初の動悸(どうき)なのか/青森駅構内の機関車が一斉に汽笛をならす音なのか/ひどくけたたましい音がする〉。寺山修司の詩「李庚順」の一節だ▼ボクサーに憧(あこが)れた寺山だが、パンチではなく俳句の腕を携えて上京、早大に入った。昭和末には、級友の紙吹雪が舞う青森駅を、日大に入る舞の海秀平さんが発(た)つ。父に「ひと花咲かせてくる」。夜行列車に揺られつつ、土俵への決意を新たにしたはずだ▼東北新幹線が12月に青森市まで延びる。来春から東京―新青森を走る新車両の名が「はやぶさ」と決まった。2年後には国内最速の時速320キロで運転する。上京する若者が闘志を燃やし、覚悟を決める旅も、とうとう3時間5分にまで縮まる▼愛称の公募には、約15万件が寄せられた。首位は、廃止された東北初の特急「はつかり」の襲名。東京―熊本間を昨春まで走った寝台特急と同じ「はやぶさ」は7位だったが、速さを売るなら初雁(はつかり)より隼(はやぶさ)だろうと、JR他社の快諾を得て命名された▼新幹線は青函トンネルを抜け、2015年度には新函館(仮称)に至るという。〈上野発の夜行列車おりた時から/青森駅は雪の中〉。北国が近づくほどに、昭和の名曲「津軽海峡・冬景色」の寂寞(せきばく)がまた遠くなる。

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