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英国で戦後初の連立政権樹立という歴史的な決断を下したのは、2人の若い政治指導者だった。
総選挙で第1党となった保守党のキャメロン党首、連立相手の第3党、自由民主党のクレッグ党首は共に43歳。テレビでの党首討論で切り結んだ2人がいま、首相、副首相として、英国政治史を変える。
総選挙で、どの党も下院の過半数を得られない「中ぶらりんの議会」が誕生し、連立を余儀なくされた。保守党、労働党の2大政党の合計得票率は6割半ばと戦後最低に落ち込んだ。
これは何を意味するか。
政策が鋭く対立しているかのように演出して見せる2大政党。その二者択一を有権者に迫る小選挙区制。それらはもはや、今日の英国社会が求めている政治ではないということだろう。
そもそもイデオロギー対決の時代が終わった90年代から、連立の時代への助走は始まっていた。「第3の道」を掲げて、97年に登場したブレア労働党政権は自由と公正という二つの理念の両立を追求し、民営化の促進や規制緩和にも取り組んだ。
それから13年。労働党の「第3の道」はすっかり定着。保守党も自民党も同じ二つの理念の両立をめざす姿勢に変わりはない。財政赤字の削減、医療や教育などの重要課題で保守、自民両党が合意できたのは、政策の違いが原理的ではないからともいえる。
微妙な違いを調整し、複数の政党に託された有権者のさまざまな期待をうまくすくい上げて政策に反映してほしい。連立政権が受け止めなければならないのは、そんな民意ではないか。
とはいえ、連立政権の運営には困難も予想される。
注目したいのは、選挙制度改革の行方だ。自民党は連立協議で、比例代表の要素を盛り込んだ選挙制度の是非を問う国民投票の実施を約束させた。
人々が新しい政治を求めているとすれば避けて通れない改革だ。キャメロン首相は党内の反対派を説得して古い政治の殻をたたき壊さねばならない。
また、英国は欧州連合(EU)の一員でありつつ、米国との「特別な関係」も重視。イラク戦争の際には、ブレア労働党政権も保守党も米ブッシュ政権に同調し、仏独など大陸欧州の主要国とは異なる道を進んだ。それが、戦争に反対した自民党の存在感を増すことにもなった。
自民党は親EUでもある。連立政権が米国とEUとの関係をどう考えていくかも重要な課題になるだろう。
昨年、日本の政治は大きな転換点を迎えた。政権を取った民主党は英国政治をモデルと考えた。だが、英国自身は自らの政治文化の変化を模索する動きを始めた。その行方には私たちも目をこらしたい。
発信力のある知事や市長が、議会と激突する構図が目立ってきた。
大阪府庁の移転問題などで府議会とぶつかってきた橋下徹知事は先月、地域政党「大阪維新の会」をつくった。大阪府と大阪、堺両市を再編する大阪都構想を唱え、来春の統一地方選で府と両市議会の過半数獲得をめざす。
名古屋市では公約である市民税の恒久減税を市議会に退けられた河村たかし市長が、地域政党「減税日本」を立ち上げた。議会解散請求も呼びかけて、議会での多数派づくりを狙う。
経緯は違うが、摩擦が生まれた背景は共通している。行政の執行権を握る首長と、政策の決定権を持つ議会が、ともに住民から直接選ばれる二元代表制だからだ。施策の実現を訴える首長も、それを阻止する議会も「民意の支持は我にあり」なのだ。
これを見直す一案として、橋下知事は政府の地域主権戦略会議で、議員を行政幹部に政治任用する制度を提案した。議会も行政運営の責任を共有すべきだという趣旨だ。総務相が設けた地方行財政検討会議も、議会の将来像を探っている。
ともに分権改革の議論だが、底流には議会への不信感もある。特権にあぐらをかき、改革を怠り、民意とかけ離れた議会の何と多いことか。その濁った古池に投じられた石が、人気首長による地域新党である。
だが、ここは慎重に考えよう。
議会には本来、立法機関であると同時に野党的な行政チェック機能が求められる。追認機関のようだった従来の構図の方がおかしい。それに慣れきった目でみれば、対立は効率的な行政運営を妨げていると映るかもしれない。だが、これが二元代表制の本質であり、民主主義の進化とみるべきだ。
権力を分散させることは民主主義を鍛える大原則だ。首長主導の地域新党は、強大な権限を持つ独裁的な指導者を生み出す危険性もはらむ。そのことは肝に銘じておく必要がある。
首長と議会の対立に選挙で黒白をつけるのは一つの方法である。だがその前に議場で大いに議論して合意を図る。首長も議員もその技術をもっと体得しよう。それが民主的な手法で民意の支持を競い合うということだ。
この点で、鹿児島県阿久根市の竹原信一市長が続けている議会への出席拒否は暴挙としか言いようがない。市議会が住民の信頼を失ってきたことの裏返しだとしても、許されない。
課題の決着方法として、住民投票も活用しよう。議会が拒めば実現しない現状を改め、一定の署名が集まれば住民投票を実施する条例をつくる自治体が生まれつつある。議会解散や首長辞職を直接請求できる、直接民主主義を土台にした自治にふさわしい解決策である。もっと広がってほしい。