二大政党制の本家・英国の総選挙で「中ぶらりん議会」が現実となった。既成政党の機能低下は他の欧州諸国にも見られる。冷戦後多様化する民意の新たな受け皿づくりを促す警鐘ではないか。
労働党と保守党、そしてこの二大政党に割って入った自民党が事実上三つどもえの戦いを繰り広げた英下院選挙は結局、保守党が躍進して第一党の座を回復した。
ブラウン首相の選挙終盤の失言問題も手伝い、終始苦戦を強いられた労働党は、大幅に議席を失った。第三極として、低迷気味だった選挙戦に緊迫感を与えた自民党は伸び悩み、選挙戦で示された高い支持率を反映させることができなかった。
単純多数を得た候補者が当選する小選挙区制では、多くの死に票は出るが民意の所在が際立ち、二大政党制の利点が生かされる、とされる。今回の選挙結果にもその特徴は表れた。
しかし、議会制民主主義の本家とされ、日本も小選挙区制導入のモデルとした英国の総選挙である。いずれの党も過半数に至らない「ハング・パーラメント」(中ぶらりん議会)が現実となり、二大政党制が揺らいだ意味あいは大きい。
背景には、グローバル化に突き進む国際社会の中で、冷戦時代の枠組みを残す二大政党がもはや民意の受け皿として十分に機能し得ていないことがある。昨年実施されたドイツ総選挙や欧州議会選挙でも表れた傾向だ。
多党化が進み、連立政権の試みが普通になっている他の欧州諸国とは違い、小政党が政権を左右する連立政権は英国にはなじみがなく、安定政権が長期に政策遂行を担うのが通例だ。
一九八〇年代以降、新自由主義を唱え徹底した規制緩和で「英国病」を克服したサッチャー保守党と、その経済政策を基本的に継承しながら個人的指導力で党を再生させたブレア労働党が長期政権を担ったことがそれを物語る。この間、両党の政策は接近し、今選挙でも内外政策で際立った政策論争は見られなかった。
英国が直面している最大の政治課題は、ギリシャと同水準にまで悪化している財政赤字の立て直しだ。多くの欧州諸国共通の課題でもある。伸び悩んだとはいえ、欧州議会議員出身で親欧州派とされるクレッグ党首の自民党が提起した課題は小さくない。民意がさまようようなことがない、迅速な受け皿づくりを期待したい。
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