米軍普天間飛行場の返還問題をめぐり、鳩山由紀夫首相は鹿児島県・徳之島の三町長に、基地機能の一部移設を正式に打診し、拒否された。配慮を欠き、手順を間違えた移設案の拒否は当然である。
首相が「普天間の機能の一部を引き受けていただければ、大変ありがたい」と要請したのに対し、三町長側は「いかなる施設も造らせないという民意は絶対変わらない」と答えた。
首相は昨年の衆院選で、普天間移設について「県外が望ましい」と明言した。徳之島への一部機能の移設で、「公約」を果たそうと考えたのであろう。
在日米軍基地の約75%が集中する沖縄県民は、重い基地負担に苦しむ。米軍駐留が日本とアジア・太平洋地域の安全保障に不可欠なら、その基地負担は国民ができる限り等しく負うことが望ましい。
しかし、徳之島への移設案と打診の仕方は妥当性を欠き、公約を果たしたように見せ掛けるアリバイづくりとの疑いが拭(ぬぐ)えない。
徳之島を含む奄美群島は戦後の一時期、沖縄県と同様、米軍に統治され、激しい本土復帰闘争を経た土地柄だ。米軍への抵抗感が強い徳之島を移設先とする際、島民感情にどれだけ配慮したのか。
首相は、事を運ぶ手順も間違えた。島民にはこれまで何の打診もなく、その不安が、島民の六割が参加した四月十八日の移設反対集会に駆り立てたのだろう。
移設案の是非は別として、首相が本気で受け入れてもらおうと考えたのなら、もっと早く徳之島に赴いて、誠意を持って説明すべきだった。
首相は、近く沖縄県を再訪問し、米軍キャンプ・シュワブ(名護市)沿岸部に杭(くい)打ち桟橋方式で滑走路を造る修正案への理解を求める考えとされる。
しかし、名護でも徳之島でも、地元自治体が強く反発する中、首相の考え通りに移設を強行するのは難しい。このままでは普天間の危険性が残るだけだ。
首相が目標とした五月末までに意味のある決着ができないのであれば、仕切り直すしかあるまい。
夏の参院選に向けて各党が普天間返還に向けた具体案を練り、有権者に判断を仰いだらどうか。海兵隊の抑止力とは何かを議論することも避けて通るべきではない。
公約には詳細を書き込んでおくことも必要だ。「党の公約ではなく、党代表としての発言」という言い逃れをさせないために。
この記事を印刷する