HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Tue, 04 May 2010 21:14:22 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:明日はこどもの日 共感を柱に刻む背比べ:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

明日はこどもの日 共感を柱に刻む背比べ

2010年5月4日

 こいのぼりを泳がせてみるために、一年の成長を柱に刻んでおくために、ヒーローとは何かを話し合ってみるために、こどもの日は国民の祝日なんだ。

 木製品が売り物のインテリアショップの店先に、ユニークな商品の束が立て掛けてありました。

 五センチごとに目盛りを刻んだ長細い薄い板。商品の名は「せいくらべ」。画びょうで壁に留められるようになっていて、二メートルまで背たけを測れます。

◆まなざしを重ね合い

 スギやクリ、山桜、クルミなど、材質はさまざまで、色合いや肌触りなども微妙に違います。ひとつ九千八百円と、決して安くはありません。が、こどもの日の前後だけでなく、誕生や入学のお祝いなどに、一年を通じて結構売れているそうです。

 平安時代初期に書かれた「伊勢物語」にも、背比べの歌が表れて、樋口一葉の名作「たけくらべ」の題名の元になったと、いわれています。

 「筒井つの 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見ざるまに」

 「筒井」は丸く掘った井戸。「井筒」はその縁を保護する囲い。「井筒の高さと比べて遊んだ私の背たけも、あなたと逢(あ)えないでいるうちに、随分高くなったでしょう」。幼なじみだけに通じる求愛の歌として。

 昔も今も、目まぐるしくうつろう季節の中で、子どもと子ども、親と子が、まなざしを重ね合い、ぬくもりを確かめ合う時間。背比べのようなひとときは、例えば親子という関係を熟成させるためには欠かせない、特別な時間なのかもしれません。

 愛知県児童総合センター顧問の田嶋茂典さんは「子どもと大人が、対等に共感し合えることが大切なんだ」と考えます。

 共感を結ぶには、上手か下手か、好きか嫌いか、強いか弱いか、意味がわかるかわからんか、そんなのすべて関係なく、同じ時間を同じ気持ちで過ごせることが一番大事。そうなるためのきっかけが、一緒に遊ぶことなんだと。

 「大人たちの“ヘーッ”“ホーッ”“オーッ”という息づかいは、きっと子どもたちにも伝わります。大人が楽しいと子どもはうれしい。そのうれしさを糧にして、子どもは前に進みます」

 田嶋さんは、うれしそうに話します。インテリアショップの「せいくらべ」もつまり、共感の物差しなのかもしれません。

 田嶋さんがいう共感とは多分、大人が子どもを一方的に理解して、支えることではありません。

◆大人たちへの応援歌

 昨年暮れの紅白歌合戦。ファンキーモンキーベイビーズという名の男性三人組が歌った「ヒーロー」は、まさしく“ヘーッ”“ホーッ”“オーッ”でした。

 駅の改札を抜けたとたんに「いつもよりちょっと勇敢なお父さん」。それがヒーロー。家族のために人知れず職場で戦うお父さんに、照れながら感謝を送る応援歌。大人社会へのありふれた反抗ではなく、適度な共感がにじんでいます。

 ウルトラマンのように巨大ではなく、仮面ライダーみたいに変身はできません。でも、家族とともに日々を生き抜くお父さんやお母さんこそ、等身大のヒーローなんだと、子どもたちも、どこかで感じているはずです。

 サビの言葉が効いています。

 「繰り返す毎日の中にも/色(いろ)んなことあるんだぜ父さん/Do it/人知れずに世の中へファイティングポーズ」

 政治の腰が据わらないから、家計は首が回らない。地球温暖化は進んでも、就職氷河期は終わらない。天下り官僚の高笑いはやまないが、リストラの涙は止めどない。工場は海外へ逃げて行くのに、米軍は出て行かない。食料や資源は先細りだが、国の借金は膨らみ続け、生き物のすみかが縮小しても、核兵器は拡散し、海の向こうの戦争は、いつまでたってもなくならない。

 しかし、現実を前にして、どれだけ無力を感じても、どんなにかっこ悪くても、不合理や不正に対し、心の中でファイティングポーズをとることだけは忘れない−。

 きっとそれが、子どもたちへの回答になるはずです。

◆風薫る明日のために

 「親子という言葉見るとき 子ではなく 親の側なる自分に気づく」

 俵万智さんが、わが子をそばに詠んだ歌。

 とりあえず、あす一日は、いつもの垣根を取り払い、柱の隅に、適当な柱がなければ「せいくらべ」の目盛りの中に、それぞれの“ヘーッ”を刻んでみませんか。

 風薫る青葉の候。子どもたちとの新しい関係が、また次の日から始まるように。

 

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