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天声人語

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2010年5月3日(月)付

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 沖縄本島の北端に辺戸(へど)岬はある。3年前に他界した沖縄の作家船越義彰(ぎしょう)さんが、「辺戸岬にて」という詩を書いたのは54年前のことだ。米軍占領下の沖縄では「島ぐるみ闘争」と呼ばれる反基地運動がうねっていた▼だが声は届かない。〈ニッポンの島影は手をのばせば届くところに浮かびながら/実に遠い手ごたえのない位置で無表情だ。/画然と断ち切られた境界、海にも断層があるのか。/北緯二八度線を超えて去来する風と雲の自由に/島は羨望(せんぼう)の眼をあげる〉▼この年、経済白書は「もはや戦後ではない」とうたった。本土には憲法9条に守られた平和もあった。だが沖縄には異なる「戦後」が流れていた。島の叫びがニッポンに届かぬ焦燥を、船越さんは言葉にとどめた▼「辺戸岬にて」は長い詩だ。その一言一句は、半世紀後のいまも本土の「無表情」を突いてくる。沖縄に基地を押しつけているのは米軍なのか。日本政府なのか。それとも私たちなのか。鳩山首相だけが苦悶(くもん)すればすむ話ではない▼とはいえ首相にとっては、いよいよ5月の暦がめくられた。普天間の決着を「必ず五月(さつき)晴れにしたい」と言うが、「五月闇」という季語もある。陰暦5月の梅雨のころ、星も月も雲に閉ざされた深い闇のことである▼10年ほど前に船越さんに会ったときを思い出す。「詩を書いた当時の一番の羨望は平和憲法でした」と言い、「いまだに沖縄はカヤの外」だと嘆いていた。首相はあす沖縄入りするが、積年の悲願にどう応えるのだろうか。魔法の杖(つえ)はありそうもないが。

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