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天声人語

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2010年5月2日(日)付

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 京都には名のある庭が数多(あまた)ある。その京に暮らした詩人の天野忠が語ったそうだ。「庭の良し悪(あ)しは、厠(かわや)の小窓からのぞき見すると、よお分かります。庭が油断してますさかい」。文学者の杉本秀太郎さんが著書『火用心(ひのようじん)』で回想している▼たしかにどの庭も、人目を浴びる方向には体裁をつけている。だが裏手からは素(す)の顔が見える。油断しているから本性が表れる。薄っぺらな造りか、本物の庭か。詩人は庭へのまなざしを、人間観察に重ね合わせていたのだろう▼英国のブラウン首相も、思わぬ「厠の小窓」から本性が割れたようだ。選挙の遊説中、支持者の女性と移民問題で立ち話をした。笑顔で応じたが、車に乗ってドアを閉めるや「頑迷な女だ」「あんなのと話させるな」。毒づいたのを、外し忘れたピンマイクに拾われた▼もともと口下手で愛想はよくない。それゆえに誠実なイメージもあったが、国民は「正体見たり。よお分かりました」といったところだろう。「ブラウンの終わり」と報じた新聞もあるそうだ▼この国で騎士道精神は尊い。だが女性は、笑顔で別れた直後に、背後から一太刀浴びた思いだったろう。「選挙中に政治家が犯した英国史上最悪の失言」と言う識者がいるのも頷(うなず)ける▼自ら率いる労働党、それに保守党に加え、選挙では自由民主党に異例の勢いがある。労働党は目下、一番の風下にあえいでいる。伝統的な二大政党制が崩れるなら、失言は「歴史的」の冠を戴(いただ)くことになろう。そのとき首相が恨むべきは、ピンマイクではなく己である。

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