<何か負ふやうに身を伏せ夫昼寝>加藤知世子。昼寝している夫とは、人間探求派の俳人、加藤楸邨(しゅうそん)のこと。その素顔を映した句だろう▼それはともかく、知世子にこんな句がある。<寄るや冷えすさるやほのと夢たがへ>。奈良・法隆寺にある観音菩薩像、いわゆる夢違観音を詠んだものだ。「ゆめちがい」、あるいは「ゆめたがい」とも読むようだ▼この句を、『国民的俳句百選』に選んだ俳人長谷川櫂さんによると、像に近づけば金銅のひやりとした感触を肌身に感じ、離れると何かほのかなものに身を包まれる、という句意。この連休明けから本紙夕刊で始まる恩田陸さんの連載小説の題も『夢違(ゆめちがひ)』。やはり、夢をめぐる不思議なお話になりそうだ▼夢違観音の名は、悪い夢を見た時に祈ると、良い夢に変えてくれるという古来の言い伝えからついたものだが、鳩山首相も手を合わせたい心境か。世論調査での内閣支持率が20%割れ寸前まで下落した。意気揚々と船出した七カ月前には思いもしなかった苦境。さながら悪い夢を見ているような心持ちに違いない▼就任以来の調査で、ほぼ下がり続ける支持率と、ほぼ上がり続ける不支持率を示した折れ線グラフが、ちょうど×(ペケ)の形になっているのが暗示的。国民はこう言いたいのかもしれない▼あの夏、私たちの見た「夢」を「違(たが)え」てしまったのはあなただ、と。