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ギリシャの名物に、肉を串で焼いたスブラキがある。20年ほど前、昼下がりのアテネでスブラキ屋をのぞくと、店の子どもがひと串つまんでいた。エーゲ海を渡る風のような、まったりしたいい景色だった▼坊やのおやつは、税法でいう自家消費にあたる。かの国でも売り上げとみなされるはずだが、黙々と串を焼くおやじさんに記帳の気配はなかった。第一そんな杓子(しゃくし)定規は、おおらかな南欧の空気にそぐわない▼だが、のんきなことも言っていられなくなった。なにしろ、ギリシャ経済の3割が税収を生まないヤミとされる。前政権が隠していた巨額の財政赤字がたたって、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に年5兆円ほどの支援を仰ぐはめになった▼労働者の25%が公務員という巨大政府の下、国庫もおおらかで、入り口は甘く出口は緩い。IMFが福祉の切り下げや増税をむげに迫れば、再び街頭が荒れよう。されど市場は待ってくれない。ユーロを使う国々は一蓮托生(いちれんたくしょう)だから、一国の信用不安はたちまち国境を越え、欧州の経済を撃つ▼ギリシャ神話には、色んな怪物が出てくる。甘美な歌で船乗りを惑わせ、難破させるのは、女の顔を持つ鳥「セイレン」。警報に使うサイレンの語源である。ユーロという巨船の上を、鳥女の群れが乱舞している▼わが空に鳴り響くサイレンも、半端な音ではない。ギリシャは消費税にあたる税率を19%から21%に上げたばかりだが、日本は5%を続ける。ユーロ圏でなくてよかったと思うようでは、すでに難破コースである。