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上海万博がきょう開幕する。
史上最大の240余りの国と地域、国際機関が参加する。月の石が人気を呼んだ、1970年大阪万博の約6400万を上回る過去最大の7千万人の入場者を見込む。
中国は70年代末から始めた改革開放政策で急速な経済成長を果たし、世界の工場、さらに世界の市場へと変貌(へんぼう)した。今年は日本を抜いて第2の経済大国になることが確実視されている。
上海万博でも、中国の吸引力には目を見張らされる。北朝鮮が初めて出展するほか、台湾館が大阪万博以来久しぶりに姿を見せる。外交関係のない国々の参加も目立つ。
上海の街のあちこちに国旗の五星紅旗がはためく。マナー向上が呼びかけられ、洗濯物を外に干したり、パジャマで外出したりする姿が影を潜めた。
胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席らは「中華民族5千年の輝かしい文明と改革開放30年余の成功を示す」場と位置づける。確かにこの万博は「途上国で初めて」と形容されており、08年北京五輪と同様に中国の存在感を世界に印象づける機会にしたいという気持ちはわかる。
とはいえ、これだけ経済発展し国際的な発言力も強くなったというのに、中国が、まるで国際的な舞台にデビューする小さな途上国のような夢だけを万博開催に託しているとしたら、いささか違和感がある。
今の中国はすでに解きほぐしがたく世界とからみ合っている。世界全体の行方は中国人の将来と密接につながる。であれば、自国宣伝や国威発揚より相互理解を深めるための万博にする。それが、大国たる中国で開く意義ではなかろうか。
中国には存在感を訴えるより、むしろ「より良い都市、より良い生活」のテーマにふさわしい環境を守ろうというスタンスを貫いてほしい。
たとえば、日本館は太陽電池と一体化した軽量膜が覆うドームで、排熱や換気には打ち水などの伝統の知恵を活用する。スイス館は自然分解する大豆繊維を使っている。各国が環境への優しさを競う。そこで学びあうのは大きな意義がある。
また、これだけ多くの中国人が外国や外国人とふれあうのは初めてだ。世界が「より良い生活」のために何をしているのか、その思想は何か、を知ってもらいたい。万博はモノを見たり見せたりするだけでなく、人々が交流する場でもあるはずだ。
上海は日中戦争で日本が軍事占領した都会でもある。戦前、約10万ともいわれる日本人社会があった。世界有数の経済都市となった今も、企業駐在員ら邦人約5万人が暮らし、縁は深い。万博には100万の日本人の入場も期待される。日本館の前評判も高い。日中間でも理解を深めるための好機だ。
景気が予想以上のペースで回復に向かい、来年度の消費者物価はやや上向く可能性が高いという。日本銀行がきのう発表した今後の経済や物価の見通しによれば、日本のデフレが加速する状況にはなさそうだ。
力強い成長に転じた新興国向けの輸出が増えていることが、景気を上向かせる原動力になっている。
とはいえ、日本経済が本格的に回復していく道筋は不透明だ。このため、日銀は、民間金融機関が成長分野に資金を流すのを支援する新方針を打ち出した。
中央銀行としてやれるぎりぎりの範囲の政策だろう。積極的な姿勢は評価したい。それにとどまらず、デフレ脱却と日本経済の成長力強化のためにどうすべきか、政府に対して包括的な逆提案をしてはどうだろう。
来年度には物価が下げ止まりそうだといっても、リーマン・ショック以降の大きな下落のあとである。そこからの若干プラスといっても、10年来のデフレ傾向は変わらない。
2000年代後半に物価は持ち直したが、米国を中心とするバブルで輸出や設備投資が伸びたのが主因だった。バブルがはじけて世界同時不況に陥ると、日本は再びデフレに逆戻りしてしまった。
この間、日銀の失敗もある。00年にデフレのただ中でゼロ金利を解除したことはその象徴である。
もっとも、膨大な借金を積み上げながら政府の歳出を増やし、超低金利を続けてもデフレから脱却できないのは、世界金融危機の衝撃もさることながら、日本経済に固有の構造的要因も働いているからだ。
将来への安心感がなく、少子高齢化は進む。市場がグローバル化する中で日本企業が苦戦し、海外に生産拠点を移していく。将来への悲観が強ければ、投資したり消費したりする気にはならない。
最近は「デフレ脱却のために、長期国債を日銀が引き受けるべきだ」などという議論も聞かれる。だが、慢性病の患者にモルヒネを大量に打っても、病気が治るわけではない。
デフレである以上、日銀が当面は超低金利を続けるのは当然だ。
しかし、デフレ脱却には家計や企業が消費や投資を増やしたりすることが必要で、そのために政府がなすべきことは多い。この課題を日銀に押し付けてすむはずがない。
日銀は、物価の安定のためにもデフレ克服と成長のための戦略を、おくすることなく政府と国民に提言・発表すべきではないだろうか。
日銀が政府の仕事に口を挟むべきではない、との反発も予想される。しかし、役割分担の上で建設的な議論を深めてこそ、連携を強化できるはずだ。