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働く人々にとって厳しい環境が続く中で、メーデーの季節を迎えた。希望を持って働ける世の中にするために、労働組合は何をすべきか。あらためて考える機会にしたい。
完全失業率(2月)は4.9%で高止まりしている。フルタイムで働く人の2009年の所定内給与は、平均月額29万4500円。4年連続で減り、前年比の減少率1.5%は1976年以降で最大だった。
とくに非正規雇用や中小企業の労働者へのしわよせがきつい。全国一般東京東部労働組合が支援するNPO法人労働相談センターに持ち込まれる相談の多くが中小・零細企業の労働者からで、3割近くは非正規の人たちだ。3月は過去最高の約600件あり、解雇関係の相談が3割を占めた。
経済がグローバル化し、企業間の国際競争が激化するとともに、正社員だった層が、派遣労働者ら不安定な非正規の雇用に置き換わる。いまやそれが3分の1にまで増えている。
最大の全国組織として働く人々を束ねる連合にも、危機感は強い。
きのうあったメーデーの中央大会で、古賀伸明会長は、「すべての働く者の連帯」を訴えた。昨年まで別に開いていた「非正規メーデー」を一体化させた。3年前に非正規労働センターを設置し、支援を始めた。
今春闘では、「すべての労働者の労働条件の改善に取り組む」との方針を掲げた。労働条件改善のため、派遣業界との協議も始めた。
連合の主流は大企業の正社員中心の企業別労組だ。終身雇用、年功序列といった日本型の雇用システムの一角を担ってきた。しかし、それらが崩れてきた以上、連合も本気で動かざるをえなくなっている。
企業活動が国境を越え、正規と非正規の雇用格差が各国で広がっていく中で、労働運動が国境の内側に閉じこもったままでは、労組はますます劣勢に立たされる。
正社員と非正社員の賃金格差をなくしていくために、たとえば欧州型の「同一価値労働・同一賃金」の方式を普及させるための政策提案や、海外の労組との連携にもっと力を注ぐことこそ、グローバル化時代の組合にふさわしい姿ではないだろうか。
まずは傘下の企業別労組が、交渉の場で非正社員の処遇改善を経営側に強く訴えることが出発点になる。雇用形態が違っても働く仲間だ、と行動で示すことである。1年更新の契約社員を全員正社員化した広島電鉄のような例が大いに参考になる。
昨年の総選挙で民主党政権の最大の支持母体になった連合の中央大会には鳩山由紀夫首相が登壇した。だが、生活向上のため労組が今こそ発言し行動するのでなければ、意味はなくなる。
食料をもっと国内でつくる。高品質の農産物をアジア諸国に輸出する。多くの雇用を生む。そんな農業の未来を開くには、何が必要だろうか。
鳩山政権が今後10年間の農業政策の基本方針となる「食料・農業・農村基本計画」を決めた。食料自給率を2008年度の41%から20年度に50%に引き上げる目標を掲げている。
ところが、それを達成するための具体的な計画がない。
全国に広がる耕作放棄地は、埼玉県の面積に匹敵する。農業人口の6割が65歳以上だ。このままだと、10年もすれば農業の基盤が崩壊しかねない。手を打つにも、残された時間は少ないのである。
問われているのは、日本農業の危機を克服するために有効な政策だ。
今月から鳩山政権の目玉公約の一つ農業の「戸別所得補償制度」が発足した。農家ごとにコメの生産費と販売額の差額を政府が穴埋めする。
この仕組みを活用すれば、やる気のある農家を増やすことができる。強い農業に生まれ変わるために大きな力を発揮することが期待される。
けれども鳩山政権は選挙対策を優先し、制度設計をゆがめた。コメ販売農家全170万戸を補償対象にしたのだ。これでは米作から退場するはずの零細な兼業農家が農地を手放さず、集約と効率化は遅れる。
たくましい農業への転換をめざすには、補償対象を生産意欲のある数十万戸ほどの中核農家に絞ることが必要ではないだろうか。
もっとも、中山間地の農家にこの制度をそのまま適用するのは難しい。別の政策を加味することが必要だ。たとえば棚田には洪水防止や地下水養成、やすらぎなどの多面的な機能がある。環境保全に役立てるという観点で助成制度を設けたらどうだろう。
戸別所得補償を定着させるには巨額の恒久財源の手当ても必要だ。今年度の予算額は約5600億円だが、来年度以降、毎年約1兆円がいる。
巨額の国民負担を求める以上、消費者にも十分な便益が見込める制度でなければ納得は得られない。
それには消費者が今より安いコメを買える機会を広げることだ。今はコメの生産調整、つまり減反政策で国内米価を高く維持している。
それをやめて米価を下げることが必要だろう。農家にとって試練だが、戸別所得補償という安全網が農家経営を支えてくれるはずだ。
国産米が安くなれば輸入米との競争力が増し、コメの高関税を見直すことも可能となる。そうなれば農業問題が手足を縛ってきた格好の貿易交渉も前へ動き出すようになる。
国民の期待を集めるような農業への道筋を示すことが、成功への鍵だ。