六年前、自民党の三役経験者らに同党資金管理団体「国民政治協会」を迂回(うかい)して、日本歯科医師連盟が巨額の資金を提供した疑惑が浮上した。大物政治家の名前が取りざたされたが、東京地検特捜部の捜査は尻すぼみに終わった▼迂回献金システムという「パンドラの箱」にメスを入れることで起きる政権与党の混乱を、当時の検察上層部は恐れたといわれる。明らかな「政治的配慮」だった▼上層部は、政治資金規正法違反容疑の立件基準を「五千万円以上」と捜査現場に伝えたとされ、立件されたのは旧橋本派への一億円のヤミ献金にとどまった▼尼崎JR脱線事故などで、強制起訴に至った検察審査会の議決は政界に波及。民主党の小沢一郎幹事長について、「元秘書との共犯の成立が強く推認される」と全員一致で起訴相当とした議決は、政権を直撃した。参院選への影響は計り知れない▼現状の99%超の有罪率は、裁判が検察の主張を追認する場であることを意味している。日歯連事件のように、政界への配慮は時に真相解明にふたをしてきただけに、白黒をはっきりさせるのは検察じゃなく、法廷だと考える市民感覚は大事にしたい▼検察が独占してきた起訴権限の一角を市民が担う意味は大きいが、小沢氏に限らず「無罪推定」の原則の徹底はより重要になる。メディアも有罪視する報道は慎んだほうがいい。