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天声人語

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2010年4月29日(木)付

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 前夜から本降りというのに、当日券を求める列はいよいよ長かった。ぬれて黒光りする大屋根から〈御禮(おんれい)本日千穐樂(せんしゅうらく)〉の幕が垂れる。さよなら公演を終えた歌舞伎座は、建て替えのため明日の閉場式で幕を下ろす▼今の建物は60年前に再建された4代目。面構えは劇場というより芝居小屋だ。七変化の戦後東京にあって、東銀座の一角にはこってりと、「定員2千人の江戸」が残っていた▼間口28メートルの大舞台である。演劇評論家の渡辺保氏は、役者はこの寸法に合わせて芸の格を高めてきたとみる。「自分の家にいる自由さがあるからこそ、非日常的な芝居へと飛躍する緊張感をもっていた」。名女形、六代目中村歌右衛門への評だ▼演者は「わが家」の解放感と、歴代の名優たちに見守られる心地よさを口にする。「初役を務める時など、どこかに宿っている先輩方が力を貸してくれるかもしれない。そんな安心感に包まれる劇場でした」。語るのは坂東三津五郎さんだ▼お客の思いも深い。元NHKアナの山川静夫さんは学生時代にハマり、3階席から声をかけ続けた。『大向(おおむこ)うの人々』(講談社)に「名優の名演技からいただく感動はなにものにも代えがたい御馳走(ごちそう)でした」とある。あまたの名演に客が酔い、常連の声が役者を育てもした▼音羽屋なら「トワヤ!」「ターヤ!」といくのが通らしい。桟敷や花道、赤い提灯(ちょうちん)の一つ一つに、ジワと呼ばれる客席のざわめきがしみ込む。積もる時が育んだ場の力、奈落の底をじわりと抜けて、3年の幕間(まくあい)を土中で過ごすことになる。

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