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天声人語

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2010年4月28日(水)付

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 「私は妹の骨壺(こつつぼ)を抱いた。あれほど忙しかったのに、時に不調を訴えることはあっても、妹はいつも健やかだった。この健やかな重み。なんて辛(つら)い重さだろう」。10年前、東京都世田谷区の一家4人殺害で肉親を失った入江杏(あん)さんの思いだ▼命を奪われる理不尽は語り尽くせるものではない。残された者の悲痛もしかり。しかし、犯人の側には時効という味方がいて、決まった期間を逃げ通せば罪に問われない。国家がそう保証していた▼殺人事件などの時効を廃止する法改正がきのう施行された。「逃げ得」はなくなり、人を殺せば死ぬまで追われることになる。ちょうど15年前、岡山県倉敷市で老夫婦を殺した犯人は、逃げ切りまで約6時間だった。どこかで生きているなら己を恨むがいい▼東京都八王子市のスーパーで女性3人が射殺された事件は時効まで3カ月。池袋の立教大生突き倒し、葛飾の上智大生刺殺、そしてもちろん、入江さんに「いっそ妹と不仲なら」とまで思わせた惨劇も間に合った▼一方で、証言や証拠は古くなり、アリバイは立証しにくい、つまり冤罪を生みやすいとの指摘がある。締め切りがなくなり、捜査の熱が冷めないかという心配もあろう。どうかこれまで以上に初動に全力を注ぎ、司法の大転換を正義に生かしてほしい▼時効の廃止が悲しみを癒やしたり、犯人を追い詰めたりするわけではない。それでも、いつか捕まるかもしれないという希望の灯は燃え続ける。被害者と、多くの遺族の思いに寄り添って法律が正された。時の必然であろう。

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