HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 21692 Content-Type: text/html ETag: "16f8d2-54bc-691e5dc0" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sat, 24 Apr 2010 22:21:06 GMT Date: Sat, 24 Apr 2010 22:21:01 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
世界経済に明るさが増す中、金融危機の再発を防ぐための規制・監督強化の議論が進みつつある。各国の足並みがそろいにくい面もあるが、改革の努力に期待したい。
予想以上に世界景気は回復しつつある。そんなメッセージを発して、ワシントンの20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は閉幕した。経済政策のかじ取り役が成長率などの回復傾向に自信を深めているのは、好ましいことだ。
ただ、回復の足取りはまだ確かなものとはいえず、ぬかるみにはまりそうな危うさがあちこちにある。
信用不安が深刻化しているギリシャでは、政府がついに欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に支援を頼みこんだ。G20では、EU関係者から報告があった。景気が過熱気味の中国の人民元の切り上げ問題についての議論は見送られた。
2008年9月のリーマン・ショックで深刻化した世界金融危機をきっかけに議論が続いている金融規制や破綻(は・たん)処理のあり方についても、議論はなかなか深まりきらないようだ。
規制や監督については、主要国間で、ある程度の方向性を共有する努力は重要だが、完全に一致させるのは難しい。各国の経済や金融の実情が異なるからだ。
米国では、大手金融機関の幹部が高い報酬をもらいながら、リスクの高い投資に走って、金融危機を招いた。公的資金で救済されたことに対する納税者らの怒りが強いのは当然だ。
そこで米政権は、銀行がファンドを所有したり、自己勘定で顧客サービスと関係のない取引をしたりすることを禁止する規制改革を進めようとしている。金融機関の規模が巨大化することに歯止めをかけ、「大きすぎてつぶせない」という矛盾を解消していく考えだ。欧州や日本がこの動きに追随する方向にはない。
米国は一国だけでも規制強化に踏み切るだろうし、それで構わない。日本では、むしろ銀行が国債の購入を増やすなど運用が消極的すぎて、経済の活性化を妨げている実態がある。
米証券取引委員会(SEC)は金融大手ゴールドマン・サックスを証券詐欺の疑いで提訴した。同社が投資家に対して適切な情報開示を行わなかったことを理由としている。
金融はますます複雑化しており、情報の格差を利用して、もうけに走る姿が世界的に目立つ。日本でも、一般投資家向けにすら、デリバティブを使った複雑な商品が売られている。
一層の情報開示を進めるのは当然のことだ。同時に、その国の実情にあわせて検査・監督体制を強化することが重要だ。厳しい摘発があってこそ、金融機関への信頼も回復するだろう。
絶大な影響力を誇った五輪の「帝王」が、89歳で旅立った。
国際オリンピック委員会(IOC)のサマランチ前会長は、21年に及ぶ在任中に五輪の商業化を精力的に推し進めた。それによって五輪を立て直したが、大きなゆがみを生んできた。五輪に光だけでなく、影ももたらした権力者だった。
1980年の会長就任時、五輪の屋台骨は弱かった。76年モントリオール大会は巨額の赤字を残し、80年モスクワ、84年ロサンゼルス大会は冷戦のただ中でボイコットの応酬になった。
氏はその五輪を根底から変えていく。競技・種目数を増やして「商品」としての価値を高め、テレビ映えする大掛かりな「ショー」に変容させる。そしてスポンサー制度やテレビ放映権料の管理で、巨額の資金が流れるシステムを作りあげた。
88年のソウル大会では、東西両陣営がそろって参加する五輪の正常化も実現した。豊かな財源をテコに、貧しい国にも五輪参加の道を開いた。
氏の功績は小さくない。だが、規則を変えて定年延長を繰り返し、ワンマン支配を続けたこともあり、五輪が行き過ぎた商業主義にむしばまれる事態も引き起こした。大会招致にからむ委員の買収という腐敗も招いた。
振り返れば、日本のスポーツ界や企業も、いびつな路線をひた走るサマランチ体制を支え、同調してきた面があった。五輪の協賛社には、日本から複数の企業が加わった。
また日本オリンピック委員会(JOC)初代会長だった堤義明氏は、サマランチ氏と非常に関係が深かった。たとえば、スイス・ローザンヌの五輪博物館建設をめぐって、堤氏は日本の財界をとりまとめ、19社が多額の寄付をしている。
98年長野冬季五輪の招致成功は、堤氏の影響力も背景にあったとされるが、同氏が所有していたリゾート施設関連の整備につながった。
2001年、ロゲ会長の就任で五輪も徐々に変わる。大会の簡素化やドーピング対策を進め、サマランチ時代の負の遺産を乗り越えようとしている。
五輪をより簡素な形に戻すため、100項目以上の経費削減案をまとめている。12年ロンドン五輪は全項目実施を目指す初の大会となる。中規模国でも開催を模索できる新時代の運営のあり方をロンドンで示してほしい。
五輪が人々の共感を呼ぶ世界の祭典であり続けるとしても、ナショナリズムを商業主義と結びつけてショー化するようなスタイルは、グローバル化の時代には似合わないだろう。
ロゲ会長は前任者とは別の道を歩んでいる。JOCをはじめ日本のスポーツ界にも、共に新しい時代の五輪像を模索してもらいたい。