巨額な政治資金の偽装は、まさに国民を欺くものだ。鳩山由紀夫首相の元秘書に対する有罪判決は「誠に遺憾」とも指弾した。首相は司法の裁きを重く受け止めないと、政治不信に拍車がかかる。
「政治とカネ」の汚濁に国民は怒りを持っている。政権交代にかけた期待が裏切られた気持ちもあろう。それが一因で、内閣支持率の急落につながっている。
鳩山首相の資金管理団体をめぐる偽装献金事件で、政治資金規正法違反罪に問われた元秘書に対し、東京地裁は「実態とかけ離れた収支報告書で、国民の信頼は著しく損ねられた」とし、禁固二年執行猶予三年の有罪判決を出した。
判決では、元秘書が収支報告書に虚偽記入や不記載の犯行を繰り返した実態を「誠に遺憾」とし、「政治への不信感が醸成されかねない」と懸念も表明した。首相は元秘書を監督する立場であり、自らの失態と同然だと受け止め、十分に反省すべきである。
政治資金の公開制度は、政治のカネをガラス張りにして、政治活動を国民の監視下に置くことに目的がある。首相が母親から受けた資金は十二億円を超え、事件の原資にもなった。報告書のごまかしは、この実態をも覆い隠した。
見逃せないのは、まだ巨額マネーの使途が不明のままであることだ。公私混同の支出があったともいわれる。法の趣旨を深く考え、首相という重い立場であれば、なおさらガラスの透明度は高くなければならないはずだ。
しかし、首相にその姿勢が感じられない。一月の衆院予算委では、検察側に提出した関係資料が戻った時点で一部を公表すると答弁していたものの、今月二十一日の党首討論では、個人のプライバシーを理由に「資料提出は必要ない」と拒否したのだ。
“約束”を反故(ほご)にするつもりなのか。使途を明かさねば、国民は事件の全体像がつかめず、納得はしまい。失望感がさらに広がり、支持率低下の追い打ちをかけるだろう。資料は全面公開した方がよい。首相の再考を願う。
母親からの提供資金については、首相は六億円余りの贈与税を納付した。だが、国民の疑念が消えたわけではない。検察審査会に首相本人が審査を申し立てられているからだ。事件への関与や監督責任などを市民がどう判断するか、目を離せない。
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