アイスランド火山の噴火が欧州の空を麻痺(まひ)させている。主要空港は業務を一部再開させ、事態は正常化へ向かい始めたが、噴火はなお続くとの観測もある。天災を人災に拡散させてはならない。
フランクフルト、シャルル・ドゴールなど、閉鎖されていた欧州の主要ハブ空港の再開が一部始まった。この間、何日も足止めを食らい、着の身着のままで待機を強いられた乗客たちの憔悴(しょうすい)しきった表情が連日伝えられた。
分刻みの航空路線で世界中がつながっているグローバル社会だ。たとえ一時間の遅れでも苛立(いらだ)ちを覚える生活に慣れてしまっている人も多かろう。なお各地に残されている乗客の心細さは察して余りある。
米中枢同時テロ、世界的金融危機以来、構造的ともいわれる不況からまだ抜け出せていない航空業界を襲った災害だ。これまでに六万便を超える欠航、数百万人の客足を失った航空各社にとって被害は計り知れない。国際航空運送協会(IATA)は、一日当たり損害総額を二百億円相当と試算している。国際経済、長引けば地球環境への影響も懸念される。
欧州連合(EU)は、噴火五日後になってようやく緊急運輸相理事会を開き、欧州空域を三つに分けて、段階的に飛行を認める措置を決定した。たまりかねた航空各社の訴えと、「一律の飛行禁止措置は現状に適合していない」とのIATAなどの批判に応えたものだが、人命尊重を最優先と考えれば、可能な限り慎重を期すのは、やむを得ない面もあろう。
噴火したエイヤフィヤトラヨークトル火山は北米プレートとユーラシアプレートの境界線上に位置する。約二百年前に起きた前回の噴火は一年間続いたとされる。活動がなお長引く恐れもある。
天変地異の下、連帯を深めようとする試みも見られた。「カチンの森」記念式典出席への途上事故死したカチンスキ・ポーランド大統領の国葬には、各国首脳が出席をキャンセルするなか、メドベージェフ・ロシア大統領が専用機を飛ばして参列、ドイツのケーラー大統領、ウェスターウェレ外相はヘリコプターで駆けつけた。噴煙の被害が比較的軽度にとどまっているスペインなど南欧諸国では、率先して他国へ空港を開放している。
天災は、責任の所在をめぐり往々にして人災を誘発する。災い転じて福となす、統合欧州の知恵をここでも示してほしい。
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