全校参加から抽出方式に変更されて初めての全国学力テストが行われた。対象から外れた学校の多くも雪崩を打ったように自主参加した。教育現場に求められるのは、むしろ不参加を貫く自信だ。
全国学力テストは過去三回、小学六年と中学三年の全員参加方式で行われてきた。だが、本年度は政権交代に伴い、昨年度より二十四億円少ない三十三億円にまで予算が削られ、文部科学省が抽出した小中学校合わせて約一万校の子どもに絞られた。
文科省によれば、抽出率は全国の小中学校の約三割だ。都道府県ごとの学力比較ができる最小限の目安という。ところが、抽出から外れた学校の約六割が自主的に参加した。抽出校と合わせると、全体の約七割がテストを受けた。
自主参加の多さに、川端達夫文科相は「今まで通り実施して学力を把握したいと思ったためではないか」と述べたが、理由はそれだけではあるまい。
教育現場に「よその学校が受けるなら、うちも」という“横並び意識”が働かなかったか。
大阪府では小中学校を合わせた抽出率は二割だが、自主参加を含めると参加率は九割を超えた。橋下徹知事は「民主党が完全に民意を見誤った典型例」と、テストの方法を批判した。だが、学力対策に躍起となっている知事の顔色をうかがって参加した学校がなかったと言い切れるか。
かつて愛知県犬山市は、学力向上を競争原理に委ねるようなテストに反旗を翻し、不参加を貫いたことがあった。子どもの学力のありようを気に掛ける親心ゆえの疑問や反発を受けてその後、参加へとかじを切った。
教育現場が自ら信じる理念を守り抜き、あえて為政者や保護者を説得し、理解と協力を得ることは、もちろん生やさしくはないだろう。しかし、今の教育に必要なのは、為政者や保護者の心中を忖度(そんたく)して右往左往することではあるまい。
例えば、横浜市や名古屋市では自主参加の学校はなかった。両市の教育委員会とも、過去三回のテストから自らの立ち位置が分かったとして、今後は独自の学力調査に力を入れるという。自主参加を見送ったことを契機に、東京都や千葉県などでも、自前の学力調査に目を向け始める自治体が出てきた。
あらためて自らの理念に基づき、地に足を着けて教育を進めようとする自負と受け止めたい。
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