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底が抜けたかのようである。
朝日新聞の世論調査で、鳩山由紀夫内閣の支持率が25%に落ち込んだ。政権発足直後は71%、歴代2位の高さを誇ったのに、わずか7カ月で「危険水域」とも言われる3割を切った。
これは単なる政権の危機ではない。
民主党は期待外れだったが、といって下野した自民党が心を入れ替えて再起をはかっているようには見えない。行き場を失った人たちが無党派層になだれこんでいる。民主支持層の倍を上回る54%。歴代政権下の数字と比べても極めて高い水準に達した。
そして、政党から離れていく有権者の受け皿になろうと、「たちあがれ日本」「日本創新党」といった新党づくりが進む。
既視感を覚える光景である。1990年代、衆院選挙制度の大きな変更をはさみ、新党が次々生まれては消え、節操を欠く離合集散が繰り返された。政党政治は迷走を続け、無党派層がかつてない分厚い集団となった。
あんな時代を再演している余裕は、いまの日本政治にはない。政権の危機を、政党政治そのものの危機にしてはならない。
混迷の原因は何か。
あの90年代以降、政党と有権者の関係が根底から変わり、政党の堅固な支持基盤というようなものが失われたことを、各党はいまだ本当には理解していないのではないか。
御利益と票のバーター関係を通じ、大勢の「常連客」を囲い込んでおく。そんな手法はとうに通用しなくなっているのに、政権奪取後の民主党は利益誘導的な古い政治を依然しばしば演じる。変化が骨身に染みていないのだ。
有権者を見くびっているというほかない。
有権者の目は年々肥えてきている。今回の調査では、内閣不支持の理由に、57%が「実行力」を挙げた。
財源なきマニフェスト。米軍普天間飛行場の移設先は「最低でも県外」と言った首相の言葉。内容の是非はさておき、熟慮も成算も欠いた空手形に終わりかねないと見透かしている。
政治主導のかけ声はいいとしても、官僚依存をやめたら、政治家の力不足がむき出しになった。政権の統治能力そのものを有権者は疑っている。
もちろんいまさらマニフェスト以前、政治主導以前に戻ることはできない。参院選に向け財源の裏付けのある実現可能なマニフェストを練り直し、各党で競い合うしかない。政官の役割分担のあり方も洗い直し、官の持つ力量を有効利用するべきである。
学者や経済人がつくる「21世紀臨調」は先にまとめた提言で、「政党の鍛え直し」の必要性を改めて訴えた。
政党離れをどこで止めるか。政党が目を覚まさなければ何も始まらない。
大人に便利なように作られた製品のため、子どもが傷を負い、ときには命を脅かされる。だというのに、大人社会はあまりに無策ではないか。
ライター遊びが原因とみられる火事で、幼い犠牲者が続く。車のパワーウインドーに指や首を挟まれ、大事に至った例も各地で報告されている。高熱の器具に手をのばす、棚の薬を誤って飲む……。同じような事故が毎年繰り返されている。
ライターをめぐっては、経済産業省の作業部会が、子どもの力では簡単に点火できない構造にするよう、安全基準を設ける議論を進めている。消費者庁は、家庭で使わなくなったライターを回収する検討を始めた。都内で過去10年、12歳以下によるライター遊びで起きた火災は511件にも上る。動きは遅すぎるくらいだ。
米国は1994年、ライターの構造規制に踏み切った。4年後に死傷者が半減したとのデータもある。
車のパワーウインドーでは、何かが挟まれば自動的に止まる装置が開発されている。だが、全座席に装備された車種は多くない。義務づけを検討してはどうか。
子どもから目を離さない、危ない物は遠ざける――。周囲の大人が注意しなければならないのは、言うまでもない。落ち度が大きければ、保護者の責任を問う必要はあるだろう。
でもそれだけで、子どもの事故は防げるのか。家庭や地域の見守る力が落ちる一方、生活空間に潜む危険は減っていない。子どもは昔も今も日々成長し、予測外の行動をとるものだ。
様々な事故の情報を集め、原因を分析し、リスクの重大性を評価する。製品改良を促し、必要なら規制措置をとり、子どもを取り巻く環境から危険を減らす。そんな機動的な仕組みが求められているのではないか。
横浜市でこどもクリニックを開業する山中龍宏さんは、けがややけどで運ばれてくる子どもを診るたびに、同じ思いを募らせてきた。
5年前、工学研究者らと協力し「事故サーベイランスプロジェクト」を立ち上げた。自身や国立成育医療研究センター(東京)が扱った症例を基に、予防策を研究。メーカーへの指摘は、高温の蒸気を出さない炊飯器の開発に結びついた。公園の遊具で転落事故が起きた自治体では、地面にゴムマットを敷いたり、階段に手すりをつけたりといった対策を実現させている。
1歳以上の子どもの死亡原因で最も多いのは「不慮の事故」だ。その予防は、消費者庁などを核に、政府を挙げて取り組むべき課題だろう。
防げるはずの事故を前に無為であることは、子どもの権利を侵すこと。そう山中さんは訴える。私たち大人すべてが肝に銘じたい。