うな丼は国民食という。だが、クロマグロ以上に、ウナギは神秘の魚。完全養殖に成功したのは快挙だが、天然ウナギの資源管理も同時に考えないと、かば焼きのにおいも縁遠いものになる。
ウナギは謎多き魚である。そのウナギの完全養殖に世界で初めて独立行政法人水産総合研究センター(横浜市)が成功した。
日本人は世界で捕れるウナギの七割を食べている。その99%以上が養殖だ。養殖とは、稚魚のシラスウナギを捕まえて、池で育てることをいう。養殖された両親に卵を産ませ、ふ化させて、第二世代を育てることが完全養殖だ。
ウナギは、その生活史、特に生殖に関して謎が多い。ニホンウナギの産卵場所がほぼ特定されたのもごく最近だ。マリアナ諸島沖から約三千キロの旅をして、はるばる日本の川へ上ってくる。自然な状態でどのように繁殖するか、まだだれも見たことがない。お手本がない中で、手探りの養殖研究なのである。
養殖ウナギは、なぜかほとんど雄になる。ほっておくと、生殖能力が備わらない。完全養殖は、ホルモンの投与など、四十年の地道な研究を結実させた快挙である。が、扉はまだ開いたばかりだ。十万匹が一応は育ったものの、自然界でも成魚になる確率は十万分の一程度、実用化にはほど遠い。
日本で食べるウナギの多くは、ヨーロッパウナギである。欧州産のシラスが中国で育てられ、かば焼きなどに加工されて結局はほとんどが日本へ送られる。一九九〇年代以降、ヨーロッパウナギのシラスが激減し、二〇〇七年のワシントン条約締約国会議は、国際取引への規制をかけた。マグロ以上に世界を巡る魚だが、国際的なウナギの資源管理機関はない。シラスの減少がこのまま続けば、マグロより先に食卓から遠ざかる恐れもある。大量化に十年以上かかるという養殖研究を進める一方で、シラスウナギの国際的な資源管理体制の構築が急がれる。
大回遊魚のウナギは、海洋から河川の上流まで、広範囲にわたる水環境の影響を受けやすい。海洋汚染だけではない。海岸や河川をコンクリートで固め、長旅に疲れたウナギから干潟や岸辺の休息地を奪ったことが、ニホンウナギ激減の始まりだった。
ウナギの生態は、人間の生活環境を改善する上で、多くの示唆を与えてくれているようだ。その謎にさらに近づくべきである。
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