HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 21646 Content-Type: text/html ETag: "eb18f-548e-992d18c0" Cache-Control: max-age=1 Expires: Mon, 19 Apr 2010 02:21:03 GMT Date: Mon, 19 Apr 2010 02:21:02 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):社説
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医療の危機―人材を集め育てる策を

 「医療崩壊を食い止める」。今春の診療報酬改定にあたり、厚生労働省の関係者らは繰り返した。だが、医師不足の解消に本気で取り組まない限り、危機は克服できない。

 改定では救急や産科、小児科などでの治療に対する報酬が4月から増えた。これらの分野を強化するのは当然のことである。

 奈良県大淀町で2006年8月、町立病院で出産中に意識を失った妊婦が19病院から受け入れを断られ、脳内出血で死亡した。08年には東京都で脳出血とみられる妊婦が7病院から断られ、亡くなった。

 こうした悲劇を繰り返すまいと、奈良県や東京都などは現場の医師らの努力で、搬送された妊婦を必ず受け入れる態勢づくりを急いでいる。

 妊婦の搬送が拒否される一因とされる新生児集中治療室(NICU)の不足にも目が向けられた。政府はいまの1.5倍にあたる約3千床が必要と試算。大学病院や自治体もNICUを増やそうとしている。

 だが、設備を整えても産科救急の危機は解決しない。それを使いこなす新生児科医や産科医が足りないことが最大の問題だからだ。

 新生児科医は、小児科などの教育のうえに専門研修が求められ、全国に千人ほどとみられる。その1.5〜2倍が必要であると、新生児科医の団体は試算している。

 医師不足は過重労働につながっている。当直の翌日でさえも通常通りに働くという無理な勤務が続いている病院が少なくない。

 医師不足に対処しようとする動きが現場にも出てきた。神奈川県立こども医療センターの新生児科は昨春、新生児科医をめざす小児科医のための短期研修制度をつくった。NICUを使える医師が各地に巣立っている。

 もちろん、必要なのは抜本策だ。多くの新生児科医や産科医を育てるための政策が求められている。

 不足は特定の分野にとどまらない。日本は06年の人口千人当たりの医師数が2.1人で、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均3.1人を大きく下回り、最低水準にある。

 この現状を克服するには、民主党が政権公約に掲げた「医師養成数の5割増」を軸に、医師の総数を増やす長期計画づくりを急がねばならない。

 大学の医学部の定員を増やす。医師となるにふさわしい人材に広くチャンスを与えるような教育制度改革や、奨学制度の充実も求めたい。

 医師の偏在をなくす努力も必要だ。医師の負担を軽減するため、看護師や機器を扱う技師も充実したい。

 「いのちを守りたい」を掲げた民主党政権はもちろん、超党派で取り組むべき重要課題である。

自然エネルギー―風をつかむ好機はいま

 低炭素時代の「風」を、うまくつかめるか。日本にとって大事なチャンスを逃してはならない。

 地球温暖化を食い止めるには、自然エネルギーを幅広く活用することが欠かせない。そのために、自然エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を拡充していく。民主党の政権公約をもとに、経済産業省が複数の拡充案を示した。夏までに1本に絞る。

 自然エネルギーは、火力や原子力発電などに比べて競争力が弱い。そこで政府が、太陽光や風力による電気を固定価格で買い取るよう電力会社に義務づける。このFITが、多くの国々で実績をあげてきた。

 日本には現在、家庭の太陽光発電のうち余った電気を対象とする限定的なFITしかない。拡充の議論が始まるのは前進だ。ぜひ中身のあるものにしてもらいたい。

 ただ、気がかりなのは経産省案では主に太陽光発電を普及させることを想定している点である。

 政府の温暖化対策基本法案は、1次エネルギー供給に占める自然エネルギーの割合を2020年までに10%に広げることをめざしている。これを実現するには、太陽光に限らず、できるだけ幅広い電源の全量を対象とするFITをつくるのが望ましい。

 もちろん、FITの拡充だけでは自然エネルギーは広がらない。電力会社が、受け入れにどれだけ積極的になるかどうかも重要だ。

 このことは、特に風力発電を広げていくうえで大きな意味がある。

 風力は発電コストが低く、まとまった量を発電しやすいため、海外では自然エネルギーの主流だ。京都議定書ができた97年以降に世界の風力発電は20倍以上に拡大し、いまや太陽光の8〜9倍もの規模がある。

 だが、日本の設備量は世界13位、年間導入量も18位にとどまる。電力会社が「風まかせでは電力が安定供給できない」と消極的なことが背景だ。

 このため日本では風力より太陽光に目が向けられ、海外に比べて特異な状態になっている。

 関連産業もあまり育っておらず、世界の風車メーカーのトップ10に日本企業はない。国際的な低炭素ビジネスの一つで大きく出遅れている。

 できるだけ早く政府が高い導入目標を掲げて風力発電所の建設を促し、その電気を積極的に受け入れるよう電力会社の背中を押すべきだ。

 風の強い地方で起こした電気を都市部へ送る送電線や、電力各社の送電網の緊密な連携など、インフラの整備も進めてほしい。

 そうしたコストが電気料金に跳ね返っても、単なる負担ではなく未来への投資だと考えたい。そうすることで日本の新しい道が開けるのだから。

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