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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
寝起きの窓から見渡して、花見は済ませたはずだがと目をこする。季節はずれの冷え込みに戸惑ってはいたが、まさか東京に雪が降るとは思わなかった。41年前に刻んだ「最も遅い雪」の記録に並んだそうだ▼自然の気まぐれは侮れない。朝から驚かすだけならまだしも、青物の値が跳ね、春物は売れず、くらしや経済にいいことは少ない。天変で地の日常が狂えば、地異は空の秩序をかき乱す▼アイスランドの火山活動が、ひと噴きで欧州の空を凍らせた。火山灰が1万メートルの上空に漂い、うかつに飛べばエンジンが止まる。20カ国以上の空港が閉鎖され、日欧を結ぶ路線も大混乱だ。1日の欠航が1万6千便と聞いて、どれほどの商機や楽しみが奪われたことかと思う▼火山灰が長らく空にとどまると、太陽光が遮られ、気温が下がる。18世紀後半には、同じ島国での大噴火が地球規模の飢饉(ききん)を引き起こし、フランス革命の一因にもなったと伝えられる。歴史さえ変える天変地異である▼SF小説の先駆ジュール・ベルヌの「地底旅行」は、アイスランドの火口から潜っていく。地底世界をさまよった末、地中海の火山島から噴き出される趣向だった。欧州を覆う砂の雲に、天も地もひと続きの地球を実感する▼暦を裏切る雪が降り、季節に構わず灰が舞う春。「説明しようなんて考えないことですよ。その方がずっと簡単だ!」。『地底旅行』(岩波文庫、朝比奈弘治訳)にある主人公の言だ。切ないが、人知を超えた営みに理屈をつけても仕方ない。いずれ暖は戻り、灰はやむ。