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戦いが終われば平和がやって来る。そんな当たり前に思えることが、実は当たり前ではない。
アフガニスタンや東ティモールなど、戦闘が終わった後に治安が悪化し、紛争が再燃した例は少なくない。
再発を防ぎ、復興を支援し、人々が安心して将来に夢を持てる生活を取り戻すために、国際社会が共同して行うのが平和構築という仕事だ。
岡田克也外相がニューヨークの国連安全保障理事会で、途上国での平和構築をテーマとする公開討論の司会を務めた。日本の外相が安保理会合に議長として出るのは初めて。前例を破って行動した岡田氏の姿勢を評価したい。
日本は、国連平和維持活動(PKO)予算の13%を分担し、米国に次ぐ拠出国である。5年前には国連平和構築委員会の創設にかかわった。アフガンでは軍閥の武装解除も行った。
平和構築は日本外交の一つの看板になりうるといってもいい。
フィリピン南部ミンダナオ島では、イスラム武装勢力と政府軍との紛争の現場を見守る国際監視団に、国際協力機構(JICA)が専門家2人を送り込んでいる。
現地を訪ねると、アフガンでの駐在経験がある菊地智徳さん(48)が学校建設や治安状況の分析といった活動に汗を流していた。危険と隣り合わせで苦労は多いが、和平の糸をたぐり寄せるためになくてはならない仕事だ。日本政府は、マレーシアが仲介する和平交渉にも側面でかかわっている。
しかし、こうした実践例はまだ少ない。国連PKOへの自衛隊・警察の派遣実績は2月時点で世界で84位。政府の途上国援助(ODA)で平和構築に使われた過去4年の実績は主要先進7カ国中6位にとどまっている。
平和構築を日本の得意技にするためには、まず現場で活躍できる人材育成が欠かせない。
広島大学は外務省の委託を受けて、3年前から、平和構築を志す若者に研修を行ってきた。国内での1カ月半の講義の後、紛争地で実地研修を積み上げる。防衛省も今春、人材養成のため国際平和協力センターを発足させた。PKOが自衛隊の本務とされてはや4年。停戦監視や司令部要員など国際的な人材づくりは急務である。
問題は育てた人材をどう活用するかであり、それは日本の外交の方針と一体として考えられなければならない。
いま国連PKOで働く日本人の文民は約30人にすぎない。政府はPKOへの派遣にもっと力を入れるとともに、各地での紛争状況を把握し、当事者間の対話や調停にも取り組むべきだ。
欧州諸国やカナダは官民が連携して平和構築の実績を残している。看板倒れにならぬよう、民主党政権にも真剣に取り組んでもらいたい。
病気になれば治療が必要だ。だが予防できれば体への負担も費用も軽減される。21世紀の医療の目標に、「治療から予防へ」が掲げられるゆえんだ。
背景には、研究が進んで、予防法が発達してきたことがある。
だが、日本では現在、残念ながらその恩恵を十分に受けられる態勢が整っていない。本来、ならずにすむ病気で闘病を余儀なくされたり、命を失ったりする。それが本人にとっても社会にとっても、大きな損失であることはいうまでもない。
「ワクチン後進国」なのである。
「命を守りたい」という鳩山政権にはぜひ、守れる命を守る態勢を整えてほしい。経済的な負担を心配せずにワクチンを受けられる仕組みが必要だ。
たとえば、子宮頸(けい)がんだ。ヒトパピローマウイルス(HPV)によって、毎年約1万5千人の女性が発症し、約3500人が亡くなっている。
その感染を6〜7割防げるワクチンが開発され、日本でも昨秋、承認された。しかし任意接種のため、5万円前後の費用がかかる。公費で助成する自治体もあるが、ごく少数にとどまる。
接種を広げるには、多くの先進諸国のように、思春期の女子に公費で行うしかない。専門家の試算では12歳女子全員に接種するのに210億円かかるが、治療費や失われる労働力を考えれば、190億円が節約できるという。
小児に重い症状をもたらす細菌性肺炎も、ワクチンで8割以上防げる。インフルエンザ菌b型ワクチンが07年に、小児用肺炎球菌が昨年、先進諸国より大幅に遅れてやっと承認されたからだ。こちらも、合わせて数万円という費用が普及の壁だ。
現状では、公費負担のある定期接種の扱いを受けるワクチンはジフテリアなど8種にとどまる。たとえば米国の16種に比べて少ない。
効果の認められるワクチンは、国の施策として接種を進める態勢を作るべきだと、専門家は指摘している。
その態勢がないことが、日本のワクチン生産能力の弱さも招いている。国産の新型インフルエンザワクチンの不足による混乱は記憶に新しい。
ワクチンは、弱めた病原体を体内に入れて免疫をつける仕組みだ。そのため、まれに予期せぬ副反応が起きる。
国民に、こうしたワクチン接種の意味とリスクとをきちんと伝えることと、副反応が起きたときの救済の仕組みを整えておくことは欠かせない。
ワクチンの担当は政府の中で細かく分かれているが、政策を総合的に担い、接種状況を見守る態勢も重要だ。
厚生科学審議会の予防接種部会が今月から、予防接種のあり方の検討を始める。根本から見直さねばならない。命を救い、結果的に節減にもなるのだから、予算を惜しむべきでない。