製薬企業による安全軽視の不正が後を絶たない。製薬企業は、人命にかかわる重要な仕事に携わっているという社会的責任を再認識し、医薬品の安全確保のために法令順守を徹底すべきだ。
「またか」という思いを抱いた人は少なくないだろう。田辺三菱製薬とその子会社の「バイファ」が厚生労働省によって薬事法に基づく行政処分を受けた。
バイファは、世界初の遺伝子組み換えアルブミン製剤を厚労省に承認申請する際、問題化しそうなアレルギー試験のデータを別のデータに差し替えるなどし、田辺三菱製薬はそれらの不正を見のがしたとされる。
承認審査は、提出された臨床試験(治験)データが正確にとられたとの前提で行われる。薬剤の専門家である審査官でも虚偽データを見抜くことは難しい。それを逆手にとった不正は言語道断だ。
しかもバイファは、薬害エイズ事件を引き起こした旧「ミドリ十字」が一九九六年に設立した企業であり、今回の不正はミドリ十字出身の社員を中心に組織的に行われたことも分かっている。
薬害エイズ事件で明らかになった「安全軽視」「利益優先」の体質が払拭(ふっしょく)されておらず、全く反省していないことを示している。
今回の不正を田辺三菱製薬だけの問題に終わらせてはならない。
内資、外資を問わず各製薬企業の主力薬の特許は二〇一〇年前後から次々と切れていっている。ところが医薬品開発は十年から十五年の開発期間と数百億〜一千億円の開発費がかかる。医薬品として最終的に承認されるのは五千から一万の化合物から一つといわれている。こうした状況の中では、不都合なデータを隠蔽(いんぺい)し、早く承認してもらおうとの誘因が働かないとはいえない。しかも競争力を高めるため製薬企業の合併が相次ぎ、企業風土の違う社員が交ざり、意思の疎通を欠きやすい。今回もそれが背景にうかがえる。
製薬企業は開発競争の激化、企業風土の違いを踏まえたうえで、法令順守を末端まで徹底させることが強く求められる。
今回の不正は内部告発で一年前に判明し、製品回収が行われたことなどから幸い健康被害は確認されていないが、行政処分が二十五〜三十日の業務停止では軽くないか。国民の健康にかかわる不正だけにもっと厳しく責任を問うてもいい。薬事法の罰則強化なども視野に入れた不正の再発防止策を検討する必要がある。
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