HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 21738 Content-Type: text/html ETag: "130159-54ea-a5dccd00" Cache-Control: max-age=1 Expires: Thu, 15 Apr 2010 23:21:03 GMT Date: Thu, 15 Apr 2010 23:21:02 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
暴力団とは何か。日常の市民生活とは共生できない存在である。
その暴力団による発砲事件が福岡県で相次いでいる。警察庁の安藤隆春長官は現地を訪れ、暴力団壊滅に向けた強い取り組みを指示した。
北九州市内で先月、指定暴力団工藤会の追放運動を進める自治会のリーダー宅に銃弾が撃ち込まれた。この銃撃事件などを受けて、全市を挙げて暴力団追放運動に取り組む姿勢を示した市長のもとには脅迫文が届いた。
さらに今月、福岡市の西部ガス関連ビルと、専務の親族宅に銃弾が撃ち込まれた。西部ガスには2月、北九州市に計画する液化天然ガスの大型基地建設工事から大手ゼネコンを外せ、とする脅迫文が銃弾とともに届いていた。
工藤会への利益供与を拒んできたこの建設会社に関係する発砲事件は、これまでに計8件起きている。自治会リーダーや企業幹部ら市民に銃口を向けた事件は、社会に対する露骨な挑戦だ。断じて許すことはできない。
福岡県は今月、暴力団排除条例を施行した。それには暴力団を利用しようとして利益を供与した事業者に対する罰則が全国で初めて設けられた。
警察庁は「警察対暴力団という構図から社会対暴力団への転換を進める」として、福岡をモデルに、ほかの都道府県でも同様の条例を制定するよう後押ししていく方針だ。
警察は組織を挙げて市民を徹底的に守り抜き、威信をかけて早く容疑者を逮捕し解散につなげてほしい。そうしなければ社会全体として暴力団と闘う隊列はできない。
福岡県内の発砲事件は2008年まで5年連続で全国最多だった。今年はすでに8件を数える。県内に拠点を置く指定暴力団は5団体で全国最多だ。県警幹部が「ヤクザを支える土壌がある」というほど、福岡特有の要因もある。
暴力団から目の敵にされる建設会社があること自体、逆らわなければ仕事が円滑に進むからとその介入を受け入れてきた業界の体質をうかがわせる。
暴力団を追いつめるには、資金源を断ち、組織の弱体化を図るしかない。条例は悪質な企業を摘発、公表して資金が行かないようにする仕組みだ。
包囲する輪に裂け目があってはいけない。トラブル処理に暴力団を使うような行為は根絶させねばならない。報復や嫌がらせを恐れてカネを払ってきた企業なども、これを機に暴力団の要求を拒む勇気をもってもらいたい。
暴力団を必要悪と見るような風土が残るのは福岡ばかりではあるまい。
福岡で暴力団と立ち向かう人々の決意を全国に広めるためにも、警察は住民や自治体、業界と連携を強め、あらゆる法令を使って違法な行為を封じ込め、壊滅へと追い込んでほしい。
人の命を守るために製薬会社は存在する。製薬会社を守るために人の命が存在するのではない。
田辺三菱製薬と子会社が、新薬の承認申請に必要な試験データを不正に差し替えたり、捏造(ねつぞう)したりした。手術のときに血液の成分の一部を補うための薬で、不正は1999年から2009年にかけて16件あったという。薬事法違反として厚生労働省の処分を受けた。製造した子会社「バイファ」は30日間、監督する立場の田辺三菱は25日間の業務停止となった。
厳しい経営状況からの「起死回生」策として、新薬の開発を急いだことがデータ改ざんの背景にあるという。利益のために安全性を軽視したのでは本末転倒だ。医薬品の信頼性を損ない、人の命にもかかわる極めて悪質な問題で、処分は当然である。
怒りを禁じ得ないのは、この会社が問題を起こすのはこれが最初ではないという点だ。子会社は、薬害エイズ事件を起こした旧ミドリ十字が、合併して田辺三菱になる前の96年に設立した。不正には、旧ミドリ十字の出身者がかかわっていた。
田辺三菱は薬害C型肝炎訴訟の被告企業でもあった。08年に被害者と和解して謝罪、「薬害根絶」を誓った。だが、結果的にC型肝炎訴訟が続いていた時期も、薬害につながりかねない不正をしていたことになる。
いったいあの謝罪は何だったのか。
この問題では内部通報を受けて09年、田辺三菱が第三者の調査委員会を設置した。その報告によると、厳しい経営状況の原因は、旧ミドリ十字が薬害エイズ事件で多額の損害賠償請求を受けたことだったという。そのうえで、「利益重視、安全性軽視」の旧ミドリ十字の体質に起因することは否定できないとした。
田辺三菱は、旧ミドリ十字を含む複数社が合併を繰り返し、07年に現在の姿になった。調査委は合併が、管理・監督の十分に機能しない状態を招いたとも指摘。グループ全体の企業統治を強化し、子会社を含めた事業内容、組織体制、人事配置などあらゆるリスク要素を把握するように求めている。田辺三菱は徹底して取り組むべきだ。
また、今のところ健康被害はないというが、万一の場合は迅速な対応が必要だ。
厚労省は処分とともに業務改善を命じた。田辺三菱のその取り組みや、その報告内容によっては、突き返すくらいの厳しい姿勢で臨んでもらいたい。
日本では、製薬会社の合併など業界再編が続いている。新薬の特許切れで収益が大きく減る「2010年問題」も迫る。合併と新薬開発という背景は業界に共通する。ほかの会社も、この問題を機に厳しく自己点検してもらいたい。