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天声人語

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2010年4月14日(水)付

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 戦場のカメラマンは、命を危険にさらすのと引き換えに、起きたことを世界に伝える。だから撮影する「位置」はプロ魂の発露でもあるそうだ。経験豊かな石川文洋さんから、カンボジアで落命した一ノ瀬泰造について聞いたことがある▼そのころ小社にいた石川さんに、一ノ瀬は現地からフィルムを送ってきた。コマを見ると、たとえば兵士が伏せている銃撃戦を自分は立って撮っている。カメラマン魂を買いつつ、若さゆえの気負いを心配したそうだ。1970年代のことである▼先日、タイで取材中に亡くなった村本博之さん(43)はベテランだった。優しい人柄をきのうの紙面が伝えていた。流血の最前線で撮影を続けたのは、やはり「魂」ゆえだったに違いない。レンズを通して最後に見たものが所属通信社から公表された▼激しい騒乱が冷静に撮影されている印象だ。前方で爆発が起きる。兵士らは逃げるが、それを追う映像はぶれない。負傷して引きずられる兵士が生々しく映る。プロの仕事だろう。命と引き換えの遺作と思えば胸が痛む▼タイは今、一番華やぐはずの旧正月を迎えた。誰彼かまわず水をかけ合う「水かけ祭り」が全土である。「こんなにやさしい祭はない」と故・立松和平さんが惚(ほ)れ込んでいたのを思い出す。だが銃声のとどろく緊迫は、いつもの優しさから遠い▼背後には貧富の格差があるという。治安部隊とぶつかったのは、水かけ祭りの盛んな、貧しい東北地方の人たちだった。「ほほえみの国」で、これ以上に憎しみ合いを深めてはならない。

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