HTTP/1.0 200 OK Server: Apache Content-Length: 60960 Content-Type: text/html ETag: "f44b2-1279-43a264c0" Expires: Tue, 13 Apr 2010 01:21:47 GMT Cache-Control: max-age=0, no-cache Pragma: no-cache Date: Tue, 13 Apr 2010 01:21:47 GMT Connection: close 4月13日付 編集手帳 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)



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4月13日付 編集手帳

 「(てつ)」という字を分解すれば〈金の王なる(かな)〉。「鉄」は〈金を失う〉。金運に恵まれる「鐵造」さんが「鉄造」さんでは気の毒だ。よって〈()は漢字制限に反対である〉◆井上ひさしさんの長編小説『吉里吉里人』(新潮文庫)で主人公の三文小説家が力説する。漢字2字の対比の妙と、気取った口調に思わず(ほお)のゆるむ場面だが、笑ったあとの胸には知らぬ間に“宿題”が置かれている◆日本語論に限らず、政治、経済、世相、歴史――何を描いても徹頭徹尾、読者サービスに努める井上文学は面白く、楽しい。「あなた、どう思います?」という宿題に気づくのはいつも、笑い疲れたあとである◆かつて語ったことがある。「人間の愚かさが誰かに注意されて改まるならば、悲しみや怒りではなく、笑いによって注意を下されるべきではないだろうか」と。井上さんが75歳で亡くなった。人間というかなしく、おかしい存在が織りなす笑い、その笑いによる世直しが『ひょっこりひょうたん島』以来の、生涯を貫く創作哲学であったろう◆訃報(ふほう)とともに部屋の照明がほんの少し落ちた、そんな錯覚のなかにいる。

2010年4月13日02時12分  読売新聞)
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